最新記事

インタビュー

出口治明「社会的責任を叫びながら、いざ不祥事になると平気で居座る経営者はおかしくありませんか」

2020年4月3日(金)11時40分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

――やはり、そこになりますか。

自分の頭で考えて、世間のいろいろな報酬のあり方をチェックすればそう思うはずです。プロ野球ではチームが勝って、観客を呼んで、儲かれば、それは選手のおかげですよ。もちろん監督の采配もありますが、選手がいなければ試合になりません。

スター性があって、優秀な成績を残す選手にはいくら払おうが、観客が集まり、メディアに取り上げられて、チーム全体が潤うわけです。もちろんスターがいてもチームがバラバラで勝てなければ話になりませんが。

会社も同じですよ。そういう社会になっていかなければ、この国の発展はありません。才能がある人にはガンガン才能を発揮してもらって、めちゃくちゃ稼いでもらって、周囲がその恩恵にあずかる方が、はるかに正しい社会のあり方です。いわゆるトリクルダウン仮説ですね。

出る杭を叩いて、足を引っ張って、みんなで貧しくなって、一体誰が得をするのかとは思いませんか。能力のある稼げる人を大事にしてラグビーワールドカップでのように強いOne Teamをつくっていくことが大切です。

――ただ、残念なことに、足を引っ張る方向に向かっていますよね。『得する、徳。』でも指摘されていますが、やたらに、ひがみ根性で他者に攻撃的な人も増えている印象が拭えません。

攻撃的になっているのは、極めてわかりやすい構造です。これはジョン・ルカーチが『歴史学の将来』(みすず書房)で述べていますが、一般に祖国愛は防衛的ですが、祖国愛が劣等感と不義の関係を結ぶと他者に攻撃的なナショナリズムになります。

いま書店に行くと、日本はこんなにも世界中で好かれているが、中国や韓国は世界中で嫌われてるといった類の本が山ほどありますよね。

この状況は大学のクラスに例えたら、異様な光景ですよ。僕はこんなに好かれているけれども、隣に座ってるA君、B君はクラス中から嫌われてると言い出すようなものですから。そんなことを言い出したら、どうなると思いますか。

――「あいつは何だ...?」って話ですよね。

本にそのようなタイトルを付けること自体が、常識的に考えたら、恥ずかしい話ですよ。世界中で恥をかかないで済んでいるのは日本語の壁があるからです。日本は人口が減少しているとはいえ、まだ人口ボリュームがそこそこあるから日本語で国内だけに流通させても商売になる。世界の誰にも読まれないから変な本が出版されてしまう。

第二次世界大戦に敗れて日本人はアイデンティティを失いました。それが戦後、GDP世界2位の経済大国となって、誇りを取り戻したように見えた。経営者の中には、政治は三流だが、経済は一流だと豪語する人もいましたが、そんなわけはないんですよ。政治と経済は車の両輪ですから。

結局、今は経済ではGDPで中国に大きく水をあけられ、産業で見ると世界最先端だったはずのエレクトロニクス産業ですら(韓国の)サムスン電子に負けたわけです。そうすると劣等意識が芽生え、その劣等意識と不義の関係を結んだ愛国心が攻撃的になるわけですね。こうした社会の歪みというのは、もっと論じられなきゃいけないですよね。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

FRB高官、利下げ開始に慎重 「数カ月確認必要」と

ワールド

中国の過剰生産能力、G7の共同対応が必要と米財務長

ワールド

シンガポール航空機、乱気流で緊急着陸 乗客1人死亡

ビジネス

イーサ現物ETF上場承認に期待、SECが取引所に申
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の大群、キャンパーが撮影した「トラウマ映像」にネット戦慄

  • 4

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 5

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 6

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 7

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    「韓国は詐欺大国」の事情とは

  • 10

    中国・ロシアのスパイとして法廷に立つ「愛国者」──…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中