最新記事

株の基礎知識

いま日本株を買っているのは誰なのか

2020年9月14日(月)06時30分
鳳ナオミ ※株の窓口より転載

「自己」の裏に日銀あり?

委託と対をなす「自己」の特徴も紹介しておきましょう。

自己売買は主に証券会社に所属しているディーラーが担いますが、ひと口にディ-ラーと言っても、そのミッションはさまざま。自身の判断で買い、売っているイメージがあるかもしれませんが、そのように相場を張っているディ-ラーはごくわずかです。自己売買の多くは相場の上下動のリスクをほとんど取りません。

自己のほとんどは大口投資家との相対取引に関わる売買であり、委託売買の反対側のポジションを取ることが多いのです(委託合計が買い越しなら自己は売り越しに。逆も同様)。自己売買が売りか買いに偏っていたとしても、それは一時的であり、エグジットが決まっているケースがほとんどです。

■統計に現れない日銀のETF買い付け

先述の通り、特に注目されるのは外国人の売り越し、買い越しの動向ですが、日本銀行のETF(上場投資信託)の買いが話題に上ることもしばしば。日銀は金融政策の一環として、民間の運用会社が組成するETFを購入することを通じて日本株を買い入れています。

買い入れを始めた2010年当時の年間買い入れ予定額は4500億円でしたが、2019年では年間6兆円まで増加。2020年にはコロナショックによる経済下振れリスクに対応する形で、年間12兆円まで買い入れペースを増加させています。もはや無視できないどころか、日本最大の買い手と言っても過言ではないでしょう。

そんな日銀のETF買い付けは、投資主体別売買動向には直接表れないことに注意が必要です。

信託銀行からの買い付けもあれば、そうでない場合もあります。ETF特有の仕組みである新規設定を利用した買い付けでは信託銀行は経由していないと思われ、設定の際に介在する指定参加者(証券会社)の自己を介していると思われます。

つまり、自己に日銀の売買が隠れていることがある、ということです。詳細は公表されていないので把握しきれませんが、購入金額は日銀のホームページで毎日公表されています。外国人、個人の動向に加えて、日銀の売買動向にも目を向けておいたほうがいいでしょう。

売買主体の傾向を知ると、相場が見えてくる

・海外投資家が買い越している、または買い越しに転じた→相場の上昇局面入り
・海外投資家が売り越している、または売り越しに転じた→相場の下降局面入り
・個人投資家が買っている→下げ基調が続いている
・個人投資家が売っている→上昇基調が続いている

このような傾向があることを知っておくことは、相場の動向を判断する際の手かがりになるでしょう。ただし、常にこのとおりになるわけではないことには注意が必要です。あくまでヒントとして参考にしつつ、実際の相場で起きていることを理解しようとする姿勢が必要です。

2020/08/24

[執筆者]
鳳ナオミ(おおとり・なおみ)
大手金融機関で証券アナリストとして10年以上にわたって企業・産業調査に従事した後、金融工学、リスクモデルを活用する絶対収益追求型運用(プロップ運用)へ。リサーチをベースとしたボトムアップと政治・経済、海外情勢等のマクロをとらえたトップダウンアプローチ運用を併用・駆使し、年平均収益率15%のリターンを達成する。その後、投資専門会社に移り、オルタナティブ投資、ファンド組成・運用業務を経験、数多くの企業再生に取り組むなど豊富な実績を持つ。テレビやラジオにコメンテーターとして出演するほか、雑誌への寄稿等も数多い。現在は独立し、個人投資家として運用するかたわら、セミナーや執筆など幅広い活動を行う。

※当記事は「株の窓口」の提供記事です
kabumado_logo200new.jpg

20200915issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

9月15日号(9月8日発売)は「米大統領選2020:トランプの勝算 バイデンの誤算」特集。勝敗を分けるポイントは何か。コロナ、BLM、浮動票......でトランプの再選確率を探る。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

金融デジタル化、新たなリスクの源に バーゼル委員会

ワールド

中ロ首脳会談、対米で結束 包括的戦略パートナー深化

ワールド

漁師に支援物資供給、フィリピン民間船団 南シナ海の

ビジネス

米、両面型太陽光パネル輸入関税免除を終了 国内産業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 8

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 9

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中