最新記事

BOOKS

福島第一原発事故は、まだ終わっていない

2020年6月2日(火)16時40分
印南敦史(作家、書評家)


 福島の現場では、地元の20代の若い衆と仕事をした。彼らは原発事故のときに中高校生で、当時の様子はテレビで見たと話していた。
 そんな彼らが卒業後、建設業の仕事に就いて、同じ現場にいる。そのうえ、次はイチエフの原子炉建屋周りの仕事だという。やる気のあるやつらで、初めてのイチエフも怖がったりせず「やらなきゃいけない」と話していた。彼らにイチエフの話をしながら、事故直後のことを思い出した。
 当時、敷地内は1号機や3号機原子炉建屋の水素爆発で瓦礫が散乱し、放射線量もわからないなか、電源復旧や炉内冷却のための作業に奔走した。建屋が爆発しているのに「炉心溶融という言葉は使うな!」とか言う上司もいて、情報も錯綜していた。「何とかしなくては」とみんな必死だった。あの時の現場の一体感は今も忘れられない。
「事故当初のことを話す人はみんな顔が真剣になる」と地元の若い衆に言われた。自分は被ばく線量が高くなり、イチエフに入れないけど、福島のために働きたいという気持ちは変わらない。そして、イチエフの作業を彼らが引き継いでいく。こうやって少しずつ世代交代をしていくんだと思った。(413~414ページより)

著者のところにハルトさんから電話があったのは、2019年の2月末のこと。「次世代を担う地元の若手をイチエフに送り出すことができました」という内容だった。

原子炉建屋周りといえば、高線量下での作業となることは必至だ。そんな所に若手が入って大丈夫だろうかと気になるのは、決して著者だけではないはずだ。

しかし高線量下でフル装備となる仕事について彼らは「やらなきゃいけない仕事ですよね」と、さらっとしていたとハルトさんは伝える。著者はそれを聞いて、「雇うなら地元作業員を雇いたい」と、ある下請け幹部が語っていたことを思い出したそうだ。

別の下請け幹部も、「除染をするにも、原発で働くにも地元への愛があると、作業の仕方が違うから」と話す。地方から福島第一に駆けつけてくれた人たちに感謝しつつ、「やはり地元の俺たちがなんとかしないと。息子がどうしたいかわからないけど、小さいときから物を作ったり解体したりするのが好きなんだよね。もし仕事をついでくれたらなぁ」とも。

東京生まれの私はときどき、自分には郷土愛を理解する資格はないし、理解することもできないのだろうと感じることがある。この話にしても同じだ。気持ちとしては分からなくもないが、しかし、地元だといっても高線量の環境に自分の子供を送り込もうだなんて考えたくもない。

だが、こうした考え方も、地元出身の人にとっては理にかなったものなのかもしれない。なぜなら、そこは故郷だからだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

財新中国製造業PMI、4月は51.4に上昇 1年2

ビジネス

ドイツ銀の株価急落、ポストバンク買収巡る訴訟で引当

ワールド

豪小売売上高、3月は予想外のマイナス 生活費高騰で

ワールド

中国製造業PMI、4月は50.4に低下 予想は上回
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中