最新記事

人生を変えた55冊

NEWS・加藤シゲアキが愛する『ライ麦畑』と希望をもらった『火花』

2020年8月6日(木)12時15分
加藤シゲアキ(タレント、作家)

「臭い」なかでの心地よさ

次は全く系統が違うのですが、内田樹さんの『寝ながら学べる構造主義』。哲学書っていうのかな。寝ながら学べるっていうくらいなので非常に分かりやすい構造主義の入門書です。僕は哲学や思想にすごく詳しいわけではないですが、そこと文学は切り離せない。やはり構造主義を理解しておくと、いろんな物や人のことを理解できると思った。


『寝ながら学べる構造主義』
 内田樹[著]
 文藝春秋

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

小説を読む理由も結局、他者を理解することだと思うんです。それで最終的には優しさとか思いやりとか、言葉にすると照れるようなことかもしれないが、そういうものを得られる。構造主義を知るのもまさにそういうことかな、とこの本を読んで感じた。

構造主義がどこから来ていて、何が自分と他者の違いを生んでいるのかを文化人類学的な視点などから分かりやすく書いている。自分たちが当たり前と思っている思考方法が、構造主義という近年の考え方だということも、僕には目からうろこだった。そこからまた別の思想や哲学にも広がっていくので、入り口としてこの本を読めてよかった。

4冊目は川上未映子さんの『ヘヴン』。川上さんは独特な文体で、女性的な目線が強い作家だと思うのですが、『ヘヴン』ではそのあたりは封印している。斜視の中学生のいじめの話で、いじめる者といじめられる者がいる。ちょっと構造主義的なところもあり、ニーチェっぽかったりもする。


『ヘヴン』
 川上未映子[著]
 講談社

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

読んだときはまあまあ面白いと思ったけど、すごく評価されていることには付いていけなかった。でも結果的に、読み直すことが非常に多い。結局、好きなんですよ。でもその好きとか、良さがうまく言葉にできない。

子供たちを描いているので文体は分かりやすいのですが、内側では不条理なものだったり、善と悪が混然とするような奇妙さがうごめいている。読者としては楽しんで読むけど、「そんな自分はどうなんだろう」とも考えてしまう。

時間がたてばたつほど好きになっていく。そういう本はいくつかあるが、小説を書いていて、「あれ、なんだっけな」と手に取る確率が高いのは『ヘヴン』。読んだ当時はそうでもなかったが、今になって人に薦めるし、定期的にページを開く本なんですよね。

今回選んだ本はどれも、何度か読み直す本。それは自分が本当に好きなものなんだろうな、と思うからです。

【関連記事】太田光を変えた5冊──藤村、太宰からヴォネガットまで「笑い」の原点に哲学あり

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米金利オプション市場、FRB利上げの可能性上昇を示

ビジネス

訂正-仏ロクシタン、株式を非公開化 18億米ドルで

ビジネス

商船三井、25年3月期純利益は減益予想 

ワールド

アジア太平洋、軟着陸の見込み高まる インフレ低下で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中