最新記事

ジョンのレガシー

1980年12月8日、ジョン・レノンが「神」になった日【没後40周年特集より】

2020年12月8日(火)17時00分
アラン・メイヤー、スーザン・アグレスト、ジェイコブ・ヤング(本誌米国版編集部)

NW_SAI_06.jpg

世紀の犯人 逮捕されたチャップマンは警官が現場に到着したとき読書をしていた BETTMANN/GETTY IMAGES

ところが、チャップマンは「僕なら待つけどな」と真顔で言った。「だって、もう二度と会えないかもしれないから」レノン夫妻は10時半までスタジオに詰めていた。そして10時50分、夫妻を乗せたリムジンがダコタハウスの72丁目側の入り口前に止まったヨーコが先に降り、ジョンが続いた。中庭に続くアーチに差し掛かったときジョンは後ろから声を掛けられた。

「ミスター・レノン!」。振り返ると、チャップマンが両手で拳銃を握って立っていた。1・5メートルの至近距離。チャップマンは発砲し、ジョンの背中と肩に4発の銃弾を撃ち込んだ。ジョンはよろめきながら6歩進み、ドアマンのオフィスで倒れた。ヨーコはジョンの頭を抱きかかえた。チャップマンは拳銃を捨てた。

ドアマンが「自分が何をやったか、分かっているのか?」と聞くと、チャップマンは「ジョン・レノンを撃った」と落ち着いて答えた。ドアマンの通報で、警察は数分後に到着した。チャップマンは逃げようともせず、J・D・サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』を読んでいた。

「パパは神の一部になった」

意識半ばで大量に出血していたジョンは、パトカーの後部座席に乗せられた。警官のジェームズ・モランは「自分が誰だか分かるか?」と問い掛けたが、ジョンは話すことができなかった。「うめき声を上げながら、分かると言わんばかりにうなずいた」。モランのパトカーを追うように、ヨーコを乗せたもう1台のパトカーが15ブロック離れたルーズベルト病院へ向かった。

ジョンは病院に搬送されたが、既に全身の血液の80%を失っており、手の施しようがなかった。30分後に死亡が宣告されたが、ヨーコは信じられなかった。「私の夫はどこにいるの?」と聞く彼女に、担当医のスティーブン・リンは深呼吸してから言った。「とても悪い知らせがある。最善を尽くしたが、あなたの夫は亡くなった。苦しむことはなかった」。ヨーコはその言葉を理解することを拒んだ。「どういうこと? 彼は眠っているの?」。そう言って、すすり泣いた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中