最新記事

リノベーション

世界遺産・富岡製糸場の「西置繭所」、6年かけた保存整備で何が変わったか

2021年3月19日(金)11時45分
写真:相馬ミナ 文:晴山香織  ※Pen Onlineより転載
富岡製糸場

西置繭所の1階多目的ホール。ガラスのハウスインハウスが圧巻。

<2020年10月にグランドオープンした富岡製糸場の国宝「西置繭所」。日本の産業遺産を、ただ保存するだけでなく継承するため生まれ変わったカルチャースポットで、115年の創業の歴史を体感したい>

2014年ユネスコの世界文化遺産に登録された、群馬県富岡市に位置する富岡製糸場。広大な敷地の最奥に、ひときわ存在感を放つ建物が現れる。そこは、2020年秋に保存整備工事を終えた国宝「西置繭所」だ。

富岡製糸場は、官営の器械製糸工場として1872年に操業する。主要な建物の図面をひいたのはフランス人のエドモン・オーギュス・バスティアン。よって、木の骨組みにレンガで壁を積み上げた西洋の建築方法「木骨煉瓦造」が特徴的だ。生糸の原料である繭を乾燥させたあと、貯蔵していた西置繭所は、2棟ある繭倉庫のひとつ。今回、整備するにあたり、これまでの国宝建造物を保存するというイメージを超えて、積極的で先駆的な活用が考えられた。この歴史的建造物の保存整備にかけられた歳月は、6年にも及ぶ。

penonline20210318tomioka-2.jpg

入り口の天井は、あえて漆喰が剥がれたまま保存し、ときの移り変わりを体験できる。

1階はドイツの産業遺産などで目にする、ハウスインハウスという手法を用いた。耐震補強の鉄骨を骨組みに壁と天井をガラスにして、もとのスペースのなかにガラスの部屋をつくった。壁や天井がライトアップされているので、歴史ある建造物のつくりをつぶさに観察することができる。操業当時の新聞や週刊誌が貼られた壁を眺めると、まるでタイムスリップしたかのようだ。今後、ホールでは会議やコンサート、ウエディングなどを行う予定。ギャラリーでは、富岡製糸場の歴史を伝える資料を展示している。

penonline20210318tomioka-3.jpg

2階には、当時の繭の貯蔵のために使われていた間仕切りが残っている。

一方、2階は、操業停止までの115年間、繭を貯蔵する場所だったことから、その時代の様子をダイレクトに体感できる。壁や床、天井などがブリキの鉄板のままの部分も多いのは、保管に適した環境にするため。繭袋を積み上げて操業当時を再現した空間もあれば、今回の保存整備に際して使った模型や工事中に見つかったという、かつての部材なども展示されている。

建物を保存するだけでなく、時代に合わせて活用していく。実際にその空間に身を置くことで、当時の様子はもちろん、いまここにある価値を実感することにもつながっている。歴史的建造物を通じて世界遺産を体験できる富岡製糸場には、何度でも足を運びたくなる魅力と発見があるのだ。


※こちらの記事は、 Pen+『リノベーションで実現する、自分らしい暮らし。』からの抜粋です。

 Pen+『リノベーションで実現する、自分らしい暮らし。』
 CCCメディアハウス

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

※2021.03.17

※当記事は「Pen Online」からの転載記事です。
Penonline_logo200.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

コマツ、発行済み株式の3.5%・1000億円を上限

ビジネス

野村HD、1―3月期純利益は568億円 前年同期比

ビジネス

LSEGのCEO報酬、年最大1300万ポンド強に 

ワールド

コロンビア大を告発、デモ参加者逮捕巡り親パレスチナ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中