最新記事

ハングル

「韓国っぽ」なお菓子からおばあちゃんの手書き文字まで 無料ハングルフォント続々と

2021年3月1日(月)19時45分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネイター)

newsweek_20210226_210500.jpg

年老いてから読み書きを学んだおばあちゃんたちの手書き文字がフォントに。JTBC News / YouTube

読み書きできるようになったおばあちゃんのフォント

このように、フォントブームは続いているのだが、その中でも最近注目を集めているのが「おばあちゃん」フォントである。

慶尚北道の漆谷郡では、幼少時代に日本語を習い、その後日本の統治が終った後も学校に行くことが出来ずに、読み書きを習えなかった老人対象の教室が開かれてる。とくに、当時女子は教養を必要とされなかったという社会背景もあり、生徒はおばあさんら女性ばかりだ。

はじめは自分の名前さえも書くことが大変だったそうだが、だんだんと読み書きの楽しみを知り、おばあさんたちは自分の文字で詩を書き始める。それらをまとめ2015年から詩集を出版し、さらにその収益を貧困によって学習が難しい子供たちへの基金に寄付しているという。2019年には、そんなお婆さんたちを追ったドキュメンタリー映画『Granny Poetry Club(칠곡 가시나들)』が上映されて韓国内でも注目を浴びるようになった。

そして漆谷郡は、昨年6月から「おばあちゃんのフォント」の開発を始めた。生徒である74歳から86歳のお婆さんたち5名は、4カ月の練習をして臨んだそうだ。ハングル文字はもちろん、数字やアルファベットもコンピューターで読み取りデザインされている。漆谷郡は、無料配布だけでなく自治体のパンフレットやイベントの横断幕、チームTシャツなどのロゴにも活用していくと発表している。

この味のある「おばあちゃんフォント」に真っ先に反応を見せたのが、Z世代と呼ばれる若者たちである。オンラインでの反応を見てみると、「字を見ていると、おばあちゃんに会いに行きたくなった」「文字の大事さを改めて感じた」という声が集まっている。

現在、スマートフォンとパソコンで使用可能にできるように開発を進めており、近日中にも一般ダウンロードができるようにする予定だという。

「文字を書く」ことよりも、キーボードやスマートフォンの画面で「文字を打つ」ことの方が多くなった。とくに社会人になってからはすっかり「手書き」で文字を書く機会が減ってしまったように感じる。しかし、この風潮が逆に手書きの暖かさを見直すきっかけとなっているのかもしれない。

映画界はスマホ時代に手書きのタイトルロゴを再評価

そう考えてみれば、韓国の映画のポスターのタイトルロゴは、日本映画に比べ手書きで書かれているが多い。アクション映画の荒々しい字体はもちろん、韓国では「ポエトリー アグネスの詩」や「牛の鈴音」など情緒あふれる映画のタイトルロゴも有名である。昔から多い方ではあったが、特に2000年代後半ごろからポスターデザイン業界でブームとなり急増した。iPhoneが登場しスマートフォンを手にしだしたころから、人びとは「書く文字」を求め始めたのかもしれない。

日本で韓流ブームから始まり、韓国ブームが定着してもう10年以上がたつ。韓国語を第二外国語として教える学校も増え、若者の間ではハングルを理解できる人も多いのではないだろうか? プリクラやインスタグラムのストーリーズなどでは、日本人の写真にハングル文字がデコられた写真を見かける機会も増えた。

実際に美しくハングルを書いてみたいと思う人も増えたのであろう。昨年10月には「日本ハングル書芸・カリグラフィー協会」も発足されている。それだけ手書きに注目が集まっている証拠だろう。

今、様ざまな無料ハングル・フォントが配布されている。韓国語に興味がある方は、ぜひ色々ダウンロードし使って見てほしい。その文字の裏にあるストーリーに触れてみるのも、また語学の楽しみにつながるのではないだろうか。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「気持ち悪い」「恥ずかしい...」ジェニファー・ロペ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中