最新記事

キャリア

ブッダの言葉に学ぶ「攻撃的にディスってくる相手」を一瞬で味方にする「ある質問」

2021年3月30日(火)19時10分
光澤 裕顕(浄土真宗(真宗大谷派)僧侶) *PRESIDENT Onlineからの転載

本当に必要なのは「気が合わない人」

では、実際のところ、ブッダは人間関係についてどのように考えていたのでしょうか。私がとくにシビれた一文を取り上げてみましょう。

悪い友と交るな。卑しい人と交るな。善い友と交われ。
尊い人と交れ。
『ウダーナヴァルガ』第25章3

シンプルですが、力強い言葉ですね。

きっとブッダも悪い友や卑しい人に苦労させられたことがあるのでしょう。そうでなければ、こんな実感のこもった言葉は出てきません。

さて、私はここに重要なポイントがあると思います。

それは、ブッダが「気の合う人とだけつるんでいればいい」とは言っていないことです。私たちは自分と気の合う人、つまり自分と似た意見を持つ人を肯定的に捉え、「善い人」と考えがちです。逆に、気の合わない人は「間違った人」として遠ざけ、その人自身に対しても否定的な見方をしてしまうところがあります。

しかし、自分自身の意見が必ずしも正しいとは限りません。あなたが無自覚のうちに、よこしまな考えを正しい判断だと考えていたとしたら、気の合う人もまた、よこしまな意見を持っている人になってしまいます。それならば、耳が痛くても正しい意見をしっかり言ってくれる人の話を聞く方がいい。

私たちは、物事を自分の都合のいいようにねじ曲げて捉えてしまうところがあります。ですから、実は「自分は正しい」と思っているときこそ、落ち着いて考えてみることが必要なのです。

油断して心に隙が生まれると、ブッダの言葉でさえ自己肯定や言い訳に利用しようとします。

気の合う人と過ごす時間は愉快ですし、何より楽でしょう。でも、多少うるさく感じても、あなたの本質をよく知っている友こそが、あなたに必要な気付きを与えてくれるのです。

ブッダの示した「卑しさ」とは

ブッダが残した言葉の中には、短くて簡潔なものが多くあります。けれども、その背景には深い意味が込められています。ここからは、その本質について解説していきましょう。

まず、ブッダが言う「卑しい」とは、どういうことなのでしょうか? これについては、『スッタニパータ』の「蛇の章」で詳しく語られています。

この章の背景は、以下の通りです。

托鉢をしていたブッダが、火を崇あがめる司祭の家を訪れます。そこには聖火が灯され、多くの供物がそなえられていました。近づいてくるブッダの姿を見ると、司祭は、「卑しい奴め、聖なる火が汚れるからこれ以上近づくな!」と横柄な態度を取ります。

ブッダの質素な身なりを見て、見下したのでしょう。

するとブッダは応えます。

「司祭よ、あなたは卑しい奴と言うが、そもそも卑しい人とは何か知っているのですか? 人を卑しい人たらしめる条件を知っているのですか?」

これには司祭もたじろいで、こう思ったでしょう。

(この人はタダ者じゃない!)

ブッダに諭さとされて、さすがの司祭も素直になります。

「ブッダさん、私は人を卑しい人とする条件を知りません。どうか、私に教えてくれませんか」

そして、ブッダは卑しい人の条件について語り出します。

アドバイスにはタイミングが重要

ブッダは教えを請われて初めて冷静に語り出すのですが、私だったら絶対に無理ですね。最初の発言でカッとなって、即座に言い返してケンカになりそうです。

ブッダは自分が答えを持っているとわかっているときでも、その答えをむやみに振りかざしたりはしませんでした。相手が受け取ってくれるタイミングをしっかりと見極めていたのです。

仏教では、教えの中身もさることながら、この「(タイミングを)見極める」という姿勢を大切にしているんです。いくら正しいことを言っていても、それがまっすぐに伝わらなければ意味がありません。タイミングを間違えてアドバイスをすれば、それは相手にとってイヤ味なお説教になってしまいます。

では、卑しい人の条件をいくつか取り上げてみます。

怒りやすくて恨みをいだき、邪悪にして、見せかけであざむき、誤った見解を奉じ、たくらみのある人、――かれを賤しい人であると知れ。
『スッタニパータ』116
自分をほめたたえ、他人を軽蔑し、みずからの慢心のために卑しくなった人、――かれを賤しい人であると知れ。
『スッタニパータ』132
実際は尊敬されるべき人ではないのに尊敬されるべき人(聖者)であると自称し、梵天を含む世界の盗賊である人、――かれこそ実に最下の賤しい人である。わたくしがそなたたちに説き示したこれらの人々は、実に〈賎しい人〉と呼ばれる。
『スッタニパータ』135

この他にも『スッタニパータ』の「蛇の章」では、卑しい人を説明する言葉がいくつもあります。

この場ではすべてを紹介することはできませんが、「ああ、こんな人、いるなぁ」と納得すること間違いなしです。ぜひ、一度読んでみてください。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ソニー、米パラマウント買収交渉に参加か アポロと協

ビジネス

ネットフリックス、1─3月加入者が大幅増 売上高見

ワールド

ザポロジエ原発にまた無人機攻撃、ロはウクライナ関与

ビジネス

欧州は生産性向上、中国は消費拡大が成長の課題=IM
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 9

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中