最新記事

昆虫

なぜ日本のカブトムシだけが独自進化? オスのケンカ必勝法・メスの交尾スタイル、どれも海外に例がなく大きな謎

2023年8月30日(水)12時40分
小島 渉(山口大学理学部 講師) *PRESIDENT Onlineからの転載
カブトムシ

日本のカブトムシは独自の進化を遂げてきた。 ruiruito - shutter stock


日本のカブトムシには、なぜか海外の同種にはない特徴がある。山口大学理学部講師の小島渉さんは「日本のカブトムシのメスは生涯で一度しか交尾をしない。海外のカブトムシは生涯に複数のオスと交尾をするが、日本のカブトムシは一度目の交尾を終えるとオスがどんなに求愛してもメスは交尾を拒否し続ける特徴がある」という――。

※本稿は、小島渉『カブトムシの謎をとく』(ちくまプリマー新書)の一部を再編集したものです。

カブトムシは「短命な昆虫」

カブトムシの成虫は短命です。正確にはまだ分かっていませんが、野外ではほとんどの個体が1~2週間程度で死んでしまうと言われています。

うまく飼育すると3カ月くらい生きますが、8月中旬頃になるとカブトムシの数が激減することからも分かるように、野外で自分が持つ寿命のポテンシャルを発揮できることはまずありません。そのおもな原因は、飢えと捕食です。特に捕食による影響はかなり大きいと考えられます。

カブトムシはどんなに手をかけて飼育しても、年を越すことはほとんどありません(ただし、15~20℃程度の低い温度を維持し続ければ半年近く生きることもあります)。一般的に昆虫やほかの動物は、体が大きい種の方が長生きする傾向にありますが、カブトムシは体が大きいにもかかわらず、ほかのコガネムシの仲間に比べてそれほど長寿だとは言えません。

カブトムシは、羽化して地上に出てきた瞬間から活発に飛び回り、間もなく交尾し産卵します。昆虫を、"細く長く生きる種"と"太く短く生きる種"にざっくりと分けるとしたら、カブトムシは間違いなく後者に属します。なぜカブトムシはこのような生き方を選んだのでしょうか?

「太く短く生きる」性質を持っている

もしかすると、飢えや捕食に由来する高い死亡率と関係しているかもしれません。カブトムシの大きな体は野外でとても目立ちます。また、逃げるのもうまくありません。羽化して地上に出たとたん、彼らは多くの天敵に狙われます。また、樹液の出る餌場を見つけるのは簡単ではなく、運よく見つけたとしてもそこでほかの虫との争いに勝たなければならず、つねに飢餓と隣り合わせです。つまり、彼らには明日の命も保証されていません。

そのような状況では、スローライフを送っている場合ではありません。まだ産卵や交尾を始めていないのに食べられてしまった、というようなことになったら、せっかく成虫になった意味がありません。それよりも、さっさと交尾して、早めにたくさん卵を産むほうが遺伝子を残すうえで有利なはずです。

つまり、カブトムシは、いつ死んでもいいように、太く短く生きるという性質を進化させたのかもしれません。

カブトムシの幼虫は何を食べているのか

カブトムシの幼虫の餌は、分解の進んだ落ち葉や朽木です。餌の中身をもう少し具体的に見てみましょう。人間と同じように、幼虫が活動したり成長したりするためには、糖などの炭水化物(ごはん)とタンパク質(おかず)が必要です。人は米やパンなどの炭水化物を食べてエネルギーを得ますが、カブトムシの幼虫は植物に含まれる食物繊維から炭水化物を得ています。

植物の細胞壁を構成する成分である食物繊維は、多糖類と呼ばれる物質に分類され、文字通り糖が連なった構造をしています。人は食物繊維を分解できないため、食物繊維を食べてもそこからエネルギーを取り出すことはできません。

【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本製鉄、USスチール買収「強い意志でできるだけ早

ワールド

プーチン氏「ロシアを脅かすこと容認せず」、対独戦勝

ワールド

中国輸出、4月前年比+1.5% 輸入と共にプラス転

ワールド

お知らせ=重複記事を削除します
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 4

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 5

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 6

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 7

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 8

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中