最新記事

ルポ特別養子縁組

母となったTBS久保田智子の葛藤の訳と「養子」の真実

ONE AND ONLY FAMILY : A STORY OF ADOPTION

2020年12月25日(金)09時30分
小暮聡子(本誌記者)

当時の久保田は、そんな呪縛を克服しようと「私がハナコのママである必然性」を探していた。なぜハナちゃんにとって、自分にとって、お互いがお互いじゃないと駄目なのか。その理由を、きっとハナちゃんは知りたがるだろう、と。おなかの中から生まれていなくてもつながりがあるのだと、「運命」以上の論理的な説明を求めていた。

「私はママになった、というよりは、日々ママになりつつある、という状況です」と、未公開に終わった原稿は結ばれる。

しかしその後、1日8回のミルクから手作りの離乳食へ、抱っこひもから電動自転車のチャイルドシートへと2人で積み重ねてきた時間が、久保田に予想もしていなかったロジックを生み出していくことになる。

「ずっと一緒にいて生活していくと、そこで得られるものは自分の想像をはるかに超えていた」と、今の久保田はどこか解放されたかのように語る。「その関係性を言葉にすることは今も難しいのだけれど、とにかく、すごくいい」

19年11月、平本夫妻とハナちゃんは、戸籍上も「実の親子」となった。特別養子縁組が成立するには育ての親が家庭裁判所に縁組の申し立てをし、6カ月以上の試験養育期間を経て家庭裁判所が審判を下す。本日をもって、あなたたちは正式に親子です、と。

だが、親子をつくるのは紙ではない。今年4月には、ハナちゃんが自分のほうから「ママ」と呼んでくれた。代替可能な誰かではなく「私」を求めているのだと分かって、久保田も「ママだよ~!」と言えるようになった。今では、既成概念の「母と子」ではなく、「私とハナちゃん」という言い方がしっくりくる。たった1つの、新しい関係性を2人で一緒につくっていると感じている。

真実告知と生みの親の事情

特別養子縁組家庭に他の多くの家族との違いがあるとすれば、それは子育てをするなかで親が子供に、血縁関係がないと知らせるプロセスを踏むことだ。特別養子縁組は戸籍上も実の親子になる制度だが、子供には自分の出自を知る権利がある。戸籍に「【民法817条の2による裁判確定日】令和〇年〇月〇日」と記載されるのは、その権利を保障するためだ。

育ての親が子供に出自を告げるプロセスは「真実告知」と呼ばれ、いつ、どういう言い方でどこまで伝えるのかについての決まりはない。それぞれの親子関係の中で模索されることになるが、新生児から育てている場合は物心がつく前から、お母さんのおなかからは生まれていないけれどこんなに大切に思っている、などと伝えることが推奨されている。

他方で、生みの親の事情をありのままに伝えるべきかどうかは難しい。鈴木によれば、女性たちから相談の連絡が入るのは、中期中絶(妊娠12~22週未満)ができなくなった妊娠22週以降が多い。もともと生理不順で生理が止まっても気にしていなかった、便秘気味で初期の胎動を排泄の動きと勘違いしていたという声をたびたび聞くほか、妊娠に気付けないような生活をしている、社会的に弱い立場の女性も少なくない。

ようやく病院に行くと中期中絶は費用も高額で危険が伴うと告げられ、怖くなってそれ以降は病院に行かず、妊婦健診も受けないまま時間が過ぎる。民間団体に委託する場合は生みの親の側に出産に関わる費用は発生しないという情報を得て連絡してくる人の中には、15歳以下を含む未成年者もいれば、婚外子を妊娠した既婚者や独身者もいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国、在外公館のテロ警戒レベル引き上げ 北朝鮮が攻

ビジネス

香港GDP、第1四半期は+2.7% 金融引き締め長

ビジネス

豪2位の年金基金、発電用石炭投資を縮小へ ネットゼ

ビジネス

再び円買い介入観測、2日早朝に推計3兆円超 今週計
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中