最新記事
グリーンスチール

革新技術で挑む鉄鋼業のグリーン化...H2GSが目指すCO2削減95%の挑戦

CREATING “GREEN” STEEL

2024年4月15日(月)11時40分
ジェフ・ヤング
建設が進むH2グリーンスチールの新プラントはCO2排出量を約95%減らす H2GS/SANDELLSANDBERG

建設が進むH2グリーンスチールの新プラントはCO2排出量を約95%減らす H2GS/SANDELLSANDBERG

<CO2排出量の約7%を占める「劣等生」の重厚産業が、水素と微生物とテクノロジーの力で生まれ変わる>

スウェーデンの鉄鋼会社H2グリーンスチール(H2GS)の幹部ラース・ルンドストロームは、自らの業界が温室効果ガスについて大問題を抱えていることを知っている。

鉄鋼は膨大なエネルギーを消費する。従来の製鉄法は、鉄鉱石を鉄鋼に変えるために使われ、石炭からつくるコークスに依存している。多くの試算によれば、鉄鋼業は世界の二酸化炭素(CO2)排出量の約7%を占めている。

「鉄鋼業は最悪の劣等生」だと、ルンドストロームは言う。だが彼が製品サステナビリティーの責任者を務めるH2GSは、CO2排出量を約95%削減する初の商業用規模の製鉄所を建設中だ。

同社の秘密は社名に隠されている。「H2」は水素分子の化学式だ。

「私たちの製鉄法ではコークスの代わりに水素を使う」と、ルンドストロームは言う。鉄鉱石から酸素を取り出すという、通常ならコークスが行う仕事を水素が肩代わりする。

コークスに多く含まれる炭素は酸素と結合してCO2を生成するが水素が酸素と結合するとより無害なものを生み出す。「当社の高炉はCO2ではなく水蒸気を排出する」と、ルンドストロームは言う。

今H2GSは、スウェーデン北部に新しいプラントを建設中。この地域には鉄鉱石だけでなく豊富な水と水力発電がある。炭素を排出しない電力が製鉄所への電力供給と「グリーン」な水素の製造の両方を可能にする。同社は今年1月、新しい製鉄所の建設に70億ドル(約1兆338億円)強の投資が集まったと発表。新しいプラントは来年の操業開始を予定している。

H2GSは、脱炭素化が最も困難な産業の1つである鉄鋼業界で、脱炭素化を目指す大規模な取り組みの最先端にいる。だが製造時のCO2排出を大幅に減らす「グリーンスチール」を生産するには、新しい技術だけでは不十分だ。

業界は、需要と供給の「鶏と卵」のような問題を克服する必要がある。H2GSのような企業は、製品に対する需要がなければ、新しいプラントを設ける莫大な資本を調達できない。だが潜在的な投資家や鉄鋼購入者は、その製品が低炭素で生産されているという保証を欲しがる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

将来の利下げ回数、賃金など次第 FRBに左右されず

ビジネス

米新規失業保険申請23.1万件、予想以上に増加 約

ワールド

イスラエル、戦争の目的達成に必要なことは何でも実施

ワールド

フーシ派指導者、イスラエル物資輸送に関わる全船舶を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 2

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 3

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽しく疲れをとる方法

  • 4

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 5

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    「高齢者は粗食にしたほうがよい」は大間違い、肉を…

  • 10

    総選挙大勝、それでも韓国進歩派に走る深い断層線

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 9

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中