最新記事

AI新局面

AIが性差別・人種差別をするのはなぜか? どう防ぐか?

2018年2月15日(木)16時26分
エイプリル・グレーザー

Kirill Makarov-Shutterstock

<公開データを学習したAIは古い固定観念や偏見も一緒に吸収する。この課題をいかに克服すべきか>

人工知能(AI)は人類の文明にとって根本的な脅威になる――米起業家イーロン・マスクはそう警告した。だが問題はAIが賢くなり過ぎることではない。むしろ愚か過ぎることだ。

意思決定を自動化するAIのソフトウエアは、判事が裁判の量刑を決める参考にも、病院の治療計画の作成にも使われている。スマートフォンに「薬局」と入力するだけで、お気に入りの薬局の住所をグーグルが地図に表示してくれるのもAIのおかげだ。AP通信はマイナーリーグのスポーツ記事をAIに書かせている。

ただし、AIが幅広く使われるようになったからといって、技術的に完成に近づいたとは限らない。AIが偏見や差別まみれの不公正な判断を下す例は山ほどある。16年、ある高校生がグーグルで「3人の黒人の若者」を検索したところ、逮捕時の容疑者の顔写真が表示された。一方、「3人の白人の若者」の検索では、笑顔の若者たちのページがヒットした。15年のオンライン広告の研究によれば、グーグルのAIシステムが女性ユーザーに提示する高給の仕事の広告数は、男性ユーザーのそれよりも少なかった。

AIのシステムには、社会全体の偏見が意図せず反映されることが多い。理由の1つは、まず最初に大量のデータを学習しなければならないからだ。データという「エサ」をAIに食べさせるのは人間であり、誰もが固有の偏見にとらわれている。

データ自体にも問題があるようだ。AIシステムのためにデータを取得する方法は、大きく分けて2つある。1つは、「プラットフォーム」を構築してデータを収集するやり方。ユーザーの個人情報を無料で集めるフェイスブックはその一例だ。

もう1つの方法は、他の誰かのデータを有料または無料で入手することだが、このやり方はさまざまな問題の原因になりかねない。例えば著作権問題を回避するために、誰でも無償で利用できる「パブリックドメイン」のデータを使うケース。ニューヨーク大学法科大学院のアマンダ・レベンドウスキの論文によれば、この種のデータには歴史的経緯に基づく偏見が大量に含まれている。

データの「公正な利用」が必要

大規模でまとまったデータセットは著作権で保護されている場合が多いため、AIの製作チームはパブリックドメインやその他の公開データ(ウィキリークスの暴露文書や機密指定解除済みの捜査文書など)をよく利用する。公開データは著作権の制約がなく、誰でも無料で利用できる。


170220cover-150.jpg<ニューズウィーク日本版2月14日発売号(2018年2月20日号)は「AI新局面」特集。人類から仕事を奪うと恐れられてきた人工知能が創り出す新たな可能性と、それでも残る「暴走」の恐怖を取り上げた。この記事は特集より>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中