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ママ兵士、アフガン派遣の試練

オバマの「3万人増派」で前線に送り込まれる兵士の中には幼い子供を抱える女性もいる。厳しい任務と家庭の両立に悩む彼女たちの選択は

2009年12月14日(月)17時37分
キャシー・デベニー(米国版副編集長)

増派の陰に イラクとアフガニスタンで死亡した女性兵士は現在124人に上る(写真はアフガニスタンの米空軍基地、08年11月) Ahmad Masood-Reuters

 マンディ・ボラー(34)は高校生のときから軍隊に入りたいと思っていた。98年にウェストポイントの陸軍士官学校を卒業した後は韓国に駐留し、そこで現在の夫と出会う。胸躍る経験を求めて前線への配備を願っていた彼女は9・11テロ後、陸軍大尉として国防総省に勤務し、イラクに2回派遣された。2回目のイラク駐留後、ボラーと夫は子供を持とうと決めた。

 来年1月、少佐に昇進したボラーは再び前線に配備される。今度はアフガニスタンだが、これまでより準備に手間取っている。ボラーと、同じく陸軍少佐の夫の間には4歳の娘がいる。そして、彼女の夫もアフガニスタンに派遣される予定だ。「とても重荷に感じている」と、ボラーは言う。「でも自分が行かなければ、他の誰かが家族を残して行かなければならない」

 12月1日、バラク・オバマ米大統領が士官候補生を前にして3万人の兵士をアフガニスタンへ追加増派すると発表したとき、聴衆に女性が多いことに私は驚いた。そして先週、増派される兵士の招集が初めてかかったとき、ボラー少佐のような女性たちはどう準備しているのかと考えてしまった。

 仕事と家族のバランスを取るのはいつだって難しい。長期に渡る前線への配備(標準で1年間)がたびたびあるとなれば、その困難さは想像を絶するほどだろう。民間企業で働く母親としての私には、軍隊勤務の母親がどれほど厳しい選択を迫られるのか見当もつかない。

 わが家のベビーシッターが病気のとき、私は自宅で仕事をするというわがままが許される。一方で11月には、アフガニスタンに配備されるシングルマザーが出発日に姿を現さず、米軍に逮捕されるという事件があった。生後10カ月の息子を世話してくれる人が見つからなかったためだ。

 現在、イラクとアフガニスタンに駐留する米兵の11%を女性が占めている。イラク・アフガニスタン退役軍人会によると、そのうち40%以上に子供がいる。また01年以降、3万人のシングルマザーが派兵されている。女性が戦闘に配備されることはないが、危険な任務であることに変わりはない。12月時点で124人の女性軍人がイラクとアフガニスタンで死亡している。

 自分は幸運なケースだと、ホラーは言う。家族は協力的だし、夫も娘の面倒をよくみてくれる。そしてボラーは幸運にも、これまではアメリカ国内で勤務してきた(米軍は出産した女性に6カ月の配備猶予しか与えてない)。

 今回のアフガニスタン派遣に際して、ボラーと夫はある選択を迫られた----2人の派遣時期をずらして約3年間別々に暮らすか、娘を残して同時期に赴任するか。そして同時期に赴任するほうを選んだ。その間、娘はテキサス州南部にいるボラーの両親と暮らす。

 まだ幼い娘は、母親の配備先がアフガニスタンの国際治安支援部隊(ISAF)だとは理解していない。しかし両親がときに銃を携えることは知っている。「私たちが兵士だってわかっている。ママたちは問題を解決しに行くのよと娘には説明していて、彼女もそれを理解している」と、ボラーは言う。「アフガニスタンで暮らす男の子や女の子を助けるんだって教えてある」

 ボラーは娘にアフガニスタンの地図を見せ、誕生日には一緒にいられないが来年のクリスマス後には帰って来ると説明した。毎週家に電話をかけ、ときどきビデオチャットが出来ればいいと考えている。夫婦は娘の世話について細かな指示を書き残し、遺言を新しくし、遺志についても文書にした。「私たちに万一のことがあったら、両親が娘の面倒を見てくれる」と、ボラーは言う。

 出発の準備は万端だとボラーは思っている。娘は既に両親の家に移り、保育園に通っている。これまでのところ別居生活はうまく行っているようだ。「でも毎日、娘を抱き締めてさよならを言う日のことを考えてしまう」と、ボラーは言う。「自分はどんな顔をするのかなって。親が泣くところは見せたくないけど」

 いつか彼女にとって、軍隊の仕事が重荷になるときがくるのだろうか。しかしボラーは、別の生き方なんて想像もできないと言う。良き母であり、良き軍人でいられると考えている。

 そんな彼女を私も信じている。その強い義務感と、娘のために世界をより良く変えていけるという信念をうらやましいと思う。でも、彼女が抱える別れの感情はうらやましいとは思わない。これから一年間、私は娘をベッドに寝かしつけるたびにボラー少佐を思うだろう。そして、彼女が同じ事を娘にしてあげられる日を思うだろう。

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