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難民問題

救助を求める人に背を向けるのか? 激しいジレンマを描いた映画がヒットするドイツ

2018年09月27日(木)15時00分
河内秀子(ドイツ在住ライター)

それまで救急車の中や嵐の際にも理性的に判断を下し、力強くキビキビと動いていた主人公が、自分の感情と倫理、法律の間で大きなジレンマに揺れ動く。BGMもセリフもモノローグもないドキュメンタリーのような映像が、主人公リケの感情の渦の中に観客を巻き込む。

目の前に助けを求めている難民がいるが、彼ら全てを助けるのは物理的に不可能である。しかし放っておけば、彼らは亡くなる可能性が高い。自分以外にもいつか救助が来るかもしれないしと、彼らに背を向けるべきか?

助けるか、助けないか? そもそも、助けるのは義務か? 生き残った者が、勝者なのか?(弱い者は滅びて当然なのか?) 主人公の船の名前が、ダーウィンの友人の植物学者の名「エイサ・グレイ」ということから、ダーウィンが唱える「適者生存」というテーマも浮かび上がる。

ドイツ国内では「主人公の苦しみが、まるで自分のことのように思えた」、「自分だったらどうするか、これからどうすべきか悩んだ」という声が多く聞かれいる。今のドイツ政府やEUの難民問題に揺れる社会の中で、誰もが自らの心に問うのだろう、「ヨーロッパという名の船には、もう空きはないのか?」と。

今年度ベルリン国際映画祭での観客賞受賞こそが、多くの人たちが心を強く揺さぶられた何よりの証拠ではないだろうか。

【参考記事】日本とドイツが民主主義の防波堤に? 欧州右傾化にバノンが参戦

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