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おじさん・おばさんにはピンとこない、若者だけに響くミュージカルの秘密

Sounds Like Teen Spirit

2019年05月22日(水)18時30分
アンナ・メンタ

オンライン上での人気に勇気づけられたイコニスは、改めてニューヨークの劇場に売り込んでみたが、関心を示すプロデューサーは今回も現れなかった。

それでも、セイクリッドハート大学(コネティカット州)の演劇科の学生たちがこの作品を上演すると、チケットがすぐに売り切れた。それを目の当たりにした同大学のジェリー・ゴーリング演劇監督が上演権を取得し、プロデューサーに就任した。

昨年夏には、オフブロードウェイで9週間に及ぶ公演が始まった。チケットは初日までに売り切れ、追加公演も決まった。

しかし、批評家の反応は好意的なものばかりではなかった。「25歳より若い人にしか聞こえない高温の犬笛みたい」に、若者以外にはピンとこない作品だと、ニューヨーク・タイムズ紙は書いた。

人間をありのまま描いた

それでも、若者の支持は熱烈だった。今年2月、ついにブロードウェイに進出し、ライシアム・シアターで公演が始まると、最初の7日間のチケット売り上げが同劇場の過去最高記録を更新した。

ある日のプレビュー公演では、若い観客が大歓声を上げたり、踊ったり歌ったりと熱狂的な反応を見せた。登場人物をまねた服装で劇場にやって来た人たちもいた。

ある女性は、ジェレミーを演じるウィル・ローランドの冒頭のソロを聞いて感極まり、両手で顔を覆った。「(ファンの若者たちにとって)僕はセレブみたいな存在になっている。実際の僕は、セレブとは正反対なんだけど」と、ローランドは言う。

現在37歳のイコニスは、「若者のふりをしているおじさん」のように思われたくないと言う。「(特定の年齢層を念頭に置い て)作品を作ったわけではない。等身大の人間をありのままに描こうとしただけだ」

等身大の若者を描く上では、出演者の多様性が役立っていると、イコニスは語る(ローランドは白人、マイケル役のサラザーはフィリピンとエクアドル系、クリスティン役のステファニー・シューはアジア系)。「主演女優や主演男優らしくない人物が重要な役を演じると、若者は登場人物に共感しやすい」

公演で最も大きな歓声が沸き 上がるのは、終盤でいじめっ子のリッチ(ジェラルド・カノニコ)がバイセクシュアルであることを告白する場面だ。

「(性的少数者が)ステージ上でカミングアウトする場面は、激しい苦悩の末の告白のように描かれることが多い」と、脚本担当のトラクツ(自らも同性愛者だ)は言う。「僕たちの作品では、それを祝福すべき場面として描く。そういう舞台を見るのは気分がいい。僕が高校生の頃は、そんなセリフや人物にはお目にかかれなかった」

トラクツとイコニスが『ビー・モア・チル』の脚本と曲を書き始めたのは、『ディア・エバン・ ハンセン』などの青春ミュージ カルが大ヒットする前のことだった。「本格的なミュージカル作品で若者の生活を描くというのは、とても斬新な試みに思えた。『ウエスト・サイド物語』や『バイ・バイ・バーディー』の時代を最後に、そんな作品はほとんどなかったから」と、ト ラクツは言う。

現在、映画化の話も進んでいる。「若者たちがコンピューターの前を離れて、劇場まで足を運んでくれるのが信じられない」と、トラクツは言う。

【参考記事】英女性シンガーの性と不安──アップビートなサウンドに悲しい言葉を乗せて

[2019年4月 2日号掲載]

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