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「デジタル布教活動が未来のカギだ」 若者の教会離れは「映え」で引き止める!?

God’s Conversion Rate

2019年09月27日(金)17時25分
ジョシュ・ウィルバー

年1万カ所の教会が閉鎖

デジタル広告は、今や1000億ドル産業となっており、企業のマーケティングや、選挙活動では既に幅広く利用されている。それが宗教団体にも広がってきた。その背景には教会を取り巻く厳しい現状がある。

アメリカでは教会に足を運ぶ人、とりわけ若者が急減しており、毎年5000〜1万カ所の教会が閉鎖されている。カナダでは、今後10年で教会の数が現在の3分の2に減るとの見通しもある。そんななか「デジタル布教活動が教会の未来のカギだ」という認識が高まっている。

多くの大型教会(日曜日の礼拝出席者が平均1000人を超える教会)は、「アウトリーチ担当者」や「コミュニケーションディレクター」を雇っている。彼らは伝統的に、教会員や関係者向けにニュースレターを作成・発送する作業などを担ってきたが、最近はソーシャルメディアの能力が必須だ。

さらに大きなメガ教会(日曜日の出席者数が平均1万人以上)は、ソーシャルメディアの専門チームを持っていて、大企業顔負けの活動をしている。中小規模の教会(日曜日の出席者数が300人以下)では、経費節減のために牧師やボランティアがオンラインアカウントを管理していることが多い。

それでも効果は上々だ。オハイオ州のある牧師は今年、フェイスブックを使ってイースター(復活祭)恒例のエッグハント(カラフルに色を塗ったゆで卵を庭などに隠しておき、子供たちがそれを探すゲーム)の宣伝をした。子供がいる近隣の親にターゲットを絞って広告を出したところ、400人以上が集まる大盛況になったという。費用はわずか20ドルだった。

フェイスブックの「チャーチ・コミュニケーションズ」は、信仰離れが著しいこの時代に、いかにキリスト教を「マーケティング」するかを考えるグループで、2万人以上のメンバーがいる。彼らはここでブランド戦略や広告のコピーについて議論したり、成功例をシェアしたりしている。

【参考記事「歌舞伎町のイエス・キリスト」が本当にクリスチャンになった日

1匹の迷える羊を探せ

そんななかで「誰にリーチするか」は、常に大きな議論の的だ。効率を考えれば、キリスト教に少しでも関心があるとか、過去に教会に属していた人をターゲットにしたほうが、実際に教会に足を向けてもらえる確率は高いように見える。

だが、このフェイスブックグループの共同設置者であるモバイル大学(アラバマ州)のケイティ・オルレッド助教の考えはちょっと違う。オルレッドは、100匹の羊の群れを任された羊飼いは、99匹を置いてでも、迷い出た1匹の羊を取り戻しに行くべきだという、聖書の「迷える羊の例え」を引用する。

「教会にマーケティングの予算があるなら、それを人ではなく、迷える1人にリーチするために使いたい。キリストから最も遠くにいる人が、キリストから最も多くを学べるのだから」

一方、教会の信徒拡大ツールを提供する「プロ・チャーチ・ツール」のブレイディ・シーラーCEOは、徹底的に現実的な戦略を提案する。ターゲット広告は、聖書の一節を引用するのではなく、人間的なエピソードや、楽しいイベント(サンタとの写真撮影など)の写真で構成したほうがいいと言う。

「広告にキリスト教の専門用語を使わないこと。カジュアルでフレンドリーな印象にすること」。つまり宗教を売り込むためには、宗教的過ぎてはいけない。まずは気軽に教会に来てもらい、あとの仕事は教会のコミュニティーに任せることだ。

教会では、例えば日曜日の礼拝後、出席者に特定のコンテンツをシェアしたり、「いいね!」をするよう頼むといいかもしれない。限られた地域と時間帯に、特定のイベントが多くの人に見られたり、「いいね!」をされたりすると、フェイスブックのアルゴリズムにより、広く知ってもらえる。

もちろん、ターゲット広告に抵抗を感じる人もいるだろう。ある元牧師は、「教会に集う多くの人にとって、『マーケティング』という言葉には、どこか汚れた響きがある」と語る。

だが、現在のままでは、若者の教会離れは進む一方だ。その一方で、テクノロジーを駆使するメガ教会の出席者は増えている。このままでは、小規模な地方教会は衰退し続け、メガ教会がアメリカのキリスト教徒という「市場シェア」を一段と圧倒することになる。

インスタ映えする写真だけでは、この流れを変えられないかもしれない。だが「イエスなら誰をターゲットにするだろう」と考えながら広告を出す作業は、ひょっとすると牧師や信徒に、信仰上の新しい発見さえももたらしてくれるかもしれない。

©2019 The Slate Group


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※10月1日号(9月25日発売)は、「サバイバル日本戦略」特集。トランプ、プーチン、習近平、文在寅、金正恩......。世界は悪意と謀略だらけ。「カモネギ」日本が、仁義なき国際社会を生き抜くために知っておくべき7つのトリセツを提案する国際情勢特集です。河東哲夫(外交アナリスト)、シーラ・スミス(米外交問題評議会・日本研究員)、阿南友亮(東北大学法学研究科教授)、宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)らが寄稿。

[2019年10月 1日号掲載]

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