最新記事

カルチャー

シャーロック・ホームズの世界で活躍する女性たち

Women Bursting Sherlock’s Bubble

2020年10月27日(火)18時20分
ローラ・ミラー(コラムニスト)

女性が活躍するホームズ物のパスティーシュは数多いが、その最新版がネットフリックス配信の映画『エノーラ・ホームズの事件簿』だ。

主役でシャーロックの妹エノーラを演じるのはTVドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』で注目を浴びた16歳のミリー・ボビー・ブラウン。彼女はホームズ家の田舎家で母親(ヘレナ・ボナム・カーター)と暮らしている。母親は娘に針仕事や料理の代わりに室内でテニスをさせ柔術を仕込む型破りなタイプだが、エノーラはそんな母が大好きだ。

ある日突然、母が失踪。エノーラは疎遠になっていた兄のシャーロックとマイクロフトに連絡を取る。マイクロフトは妹をしつけの厳しい寄宿学校に入れて、さっさと結婚させようとするが、エノーラは逃げ出して母を探しにロンドンに向かい、その途中で謎めいた暗殺者に狙われる若いハンサムな侯爵(ルイス・パートリッジ)を助ける。

かわいい少女が胸のすくアクションを見せてくれる痛快なパスティーシュだが、難点は展開が読めてしまうこと。エノーラの母親と仲間の女性たちが参政権の獲得を目指しているのも、いかにもありそうな設定だ。ビクトリア朝時代の窮屈な女性の衣服やジェンダー意識を皮肉るくだりもそう。この映画のフェミニズムばりの主張には異論はないものの何の目新しさもない。

ホームズ兄弟に妹がいるという設定はこの映画が初めてではない。BBCのドラマSHERLOCK(シャーロック)』のシーズン4には、2人の兄より知能が高いユーラス・ホームズが登場する。ただし彼女は殺人衝動に駆られたサイコパスだ。

竹内結子の名演が光る

ユーラスはさておき、ホー ムズ物のパスティーシュに登場する女性たちは総じて賢く強く美しい。TVドラマ『エレメンタリーホームズ&ワトソン in NY』は、物語の舞台をビクトリア朝のロンドンから現代のニューヨークに移し、ルーシー・リュー演じる女性版ワトソンがジョニー・リー・ミラー演じるホームズとコンビを組む。

元祖ホームズ・シリーズの「男社会」的な精神風土を一変させるには、シャーロックその人を女性にしてしまうのが一番手っ取り早い。原作に果敢に挑む心意気や大胆さで、フェミニズム風パスティーシュの最高傑作の名にふさわしいのはHuluとHBOアジアの共同製作ドラマ『ミス・シャーロック』だろう。舞台は現代の東京。ホームズもワトソンも女性という設定だ。

「シャーロック」のニックネームで呼ばれるのは捜査コンサルタントの双葉・シェリー・さら。演じるのは9月に急逝した竹内結子だ。天才的な推理力を誇る彼女は事件現場に乗り込むと、平然とぶしつけな質問をし、一瞬もひるまずに遺体に手を突っ込む。そして、誰もが見逃す些細な事柄に目を付けて難解な謎を解く。彼女の相棒は「わとさん」。シリアで医療ボランティアをしていた女性医師の橘和都(貫地谷しほり)だ。

竹内演じるシャーロックは尊大で謎解き一筋。他人にどう思われようが全く気にしない。ヒロインの人物造形としてはこれまでなかったパターンで、見ていてワクワクする。

冷徹無比な竹内版シャーロックは身近にいたら実に扱いにくい人間だが、原作のホームズもそうだ。ドイルが描いた世界を引っくり返すなら、せめてホームズと同じくらい偏屈で、それでいて素晴らしい天才にその仕事を任せたい。

©2020 The Slate Group

20201103issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

11月3日号(10月27日発売)は「ドイツ妄信の罠」特集。歴史問題、経済、外交......「日本はドイツを見習え」はどこまで正しいか。

[2020年10月13日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾のWHO総会出席、外相は困難と指摘 米国は招待

ビジネス

アングル:ドル売り浴びせ、早朝の奇襲に介入観測再び

ワールド

韓国4月製造業PMI、2カ月連続で50割れ 楽観度

ワールド

カナダの原油パイプライン拡張完了、本格輸送開始
今、あなたにオススメ

RANKING

  • 1

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 2

    なぜ女性の「ボディヘア」はいまだタブーなのか?...…

  • 3

    「見せたら駄目」──なぜ女性の「バストトップ」を社…

  • 4

    メーガン妃が立ち上げたライフスタイルブランド「ア…

  • 5

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 2

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 3

    なぜ女性の「ボディヘア」はいまだタブーなのか?...…

  • 4

    「見せたら駄目」──なぜ女性の「バストトップ」を社…

  • 5

    「自由すぎる王族」レディ・アメリア・ウィンザーが「…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 3

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 4

    キャサリン妃とメーガン妃の「本当の仲」はどうだっ…

  • 5

    メーガン妃から「ロイヤルいちごジャム」を受け取っ…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:世界が愛した日本アニメ30

特集:世界が愛した日本アニメ30

2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている