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フランス社会

フランス文化の一部、タバコを守れ!

歴史的著名人のポスターからもタバコを消し去る厳しい規制に国民の怒りが爆発。文化的アイデンティティーに深く根ざす喫煙カルチャーを見直す動きが高まり始めた

2011年1月21日(金)15時48分

広がる包囲網 フランスでは08年にレストランやカフェでも喫煙が禁じられた Benoit Tessier-Reuters

 どうやらフランスは、長年築いた喫煙カルチャーを消し去ることはできないと悟ったらしい。同国政府は今週に入って、喫煙をめぐる規制に例外措置を認める方向へと一歩を踏み出した。

 とはいえ、禁煙国への道を諦めたわけではない。今回の動きは、公共の場からタバコの映像や画像を一掃するという検閲まがいの取締りを改めようというものだ。

 タバコの直接的・間接的な広告が禁じられているフランスではここ数年、公共の場に掲げられた著名なフランス人の写真やポスターに写っているタバコまで「消去」されるようになっていた。

 しかし、哲学者ジャン=ポール・サルトルやコメディー映画の巨匠ジャック・タチなど、タバコがトレードマークだった著名人のポスターからもタバコが消されていくのを見て、国民の怒りがついに爆発。抗議の嵐にさらされた議会の文化委員会は1月19日、「文化遺産」への配慮として、他界した著名人の画像や映像からはタバコを消去しなくて良いとする法案を賛成多数で可決した。

 これから上下院で審議される見通しだが、一部の議員に言わせれば、この法案は喫煙規制を拡大解釈する動きを是正するためのもの。「歴史の歪曲、精神的な営みに対する検閲、現実の否定といった行為は凶悪な全体主義国家で行われるものだ」と、同法案には記されている。

タバコは「知性と品格」の象徴?

 ヨーロッパでは、04年にアイルランドが初めて自宅を除く屋内での喫煙を禁じたのを皮切りに、大半の国が(程度の差はあるものの)喫煙規制に乗り出してきた。

 そんな流れに逆行する動きはフランスが初めてではない。オランダでは、店主が1人で営業する面積70平方メートル以内のパブは規制対象から外されている。

 イギリスでいち早く喫煙規制を始めたスコットランドでも昨年末、スコットランド認可事業協会(SLTA)が規制の改定を政府に求めた。06年に屋内の公共の場での喫煙が禁じられて以来、700軒以上のパブが閉店に追い込まれたからだ。

 もっとも、フランスほど喫煙規制をめぐる議論が高まっている国はないだろう。フランスでは、タバコは社会的な寛容さに加え、「知性と品格」の象徴とも言える。だからこそ08年に、オフィスや学校だけでなくレストランとカフェでの喫煙も全面禁止となった際には、多くのフランス人が反発した。「検閲は独裁者のやり方だ。うまくいくはずがない」と、リヨンでカフェを営むクリストフ・セダは語る。

 サルトルがタバコをくゆらす姿を再び目にする日も、そう遠くないかもしれない。

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