最新記事

イタリア

懲りないベルルスコーニの復活大作戦

驚きの人心掌握術で、スキャンダルも有罪判決もなんのその、あの手この手で票をかき集める元首相

2013年3月28日(木)13時01分
バービー・ラッツァ・ナドー(ローマ)

勝算あり? ローマで開かれた支持集会で満面の笑みを浮かべるベルルスコーニ(1月25日). Max Rossi-Reuters

 イタリアのシルビオ・ベルルスコーニ前首相は狙った有権者の心をつかむ名人だ。76歳のメディア王で3度首相を経験したベルルスコーニは、2月下旬の総選挙で首相への返り咲きを目指す。このところ遊説先で有権者受けを狙った発言を続けているが、どうやらそれが功を奏し始めているようだ。

 1月27日、ナチスのホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の犠牲者を追悼する式典で、ベルルスコーニはかつての独裁者ムソリーニを擁護した。ナチスドイツとの同盟は過ちだったとしながらも、「人種法は指導者として最悪の過ちだったが、ムソリーニはいいこともたくさんした」と、報道陣に語った。極右の票を取り込むことを狙った発言というのが大方の見方だ。

 ムソリーニは1938年、ユダヤ人排斥の人種法を制定。43~45年にユダヤ人約1万人が国外に送られ、その多くがアウシュビッツで命を落とした。

 ベルルスコーニの発言は追悼式典に参加していたユダヤ人の神経を逆なでした。首相候補の1人である中道左派・民主党のピエルルイジ・ベルサニ書記長も「ベルルスコーニはファシスト的な右派の票欲しさに式典を利用した」と批判した。

 ベルルスコーニが次に目を付けたのはサッカーファンだった。彼らの票を取り込むべく、自身が名誉会長を務めるACミランに、サッカー界の問題児マリオ・バロテッリを移籍させるという行動に出た。

 バロテッリの素行の悪さはベルルスコーニの比ではない。10年から英マンチェスター・シティでプレーし、イギリスのタブロイド紙に数々のネタを提供してきた。しかし昨年の欧州選手権ではイタリア代表チームで活躍、「スーパーマリオ」という異名と国民的人気を手に入れた。それでもバロテッリの帰還は、ベルルスコーニの対抗勢力からは票集めの反則技とみられている。何しろサッカーへの忠誠が第一というお国柄なのだ。

 移籍金2000万ユーロ(約24億8000万円)の投資は、ACミランの成績アップには役立たないかもしれないが、ベルルスコーニの支持率アップにはほぼ間違いなく役立つだろう。調査会社SWGによれば、バロテッリの移籍話が出ただけで前首相の支持率は上昇した。あるイタリア紙の試算では、実際に試合に出るようになれば新たに40万票を獲得する可能性があり、1票の値段は約50ユーロになる。

「私は有権者に会いに行くが、彼はサッカー選手を買いに行く」とベルサニはベルルスコーニのサッカー戦略を皮肉った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

シンガポール航空機、乱気流で緊急着陸 乗客1人死亡

ビジネス

アストラゼネカ、30年までに売上高800億ドル 2

ビジネス

正のインフレ率での賃金・物価上昇、政策余地広がる=

ビジネス

IMF、英国の総選挙前減税に警鐘 成長予想は引き上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 9

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 10

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中