最新記事

インド洋

モルディブが憲法修正で中国の植民地に?

外国人の土地所有を史上初めて認めたのは中国との関係緊密化を意識してのこと

2015年8月24日(月)17時00分

蜜月 ヤミーン大統領(中央)は昨年中国を訪問し、習近平国家主席(右)の手厚い歓迎を受けた

 インド洋に浮かぶ南国の島国モルディブが先頃行った憲法修正は、最近には例のない超スピード審議だった。ろくに論議も行わず、参考意見も聞かず、議員が草案を精査することもないまま、モルディブ議会は外国人に土地所有を初めて認めるという憲法修正案を可決した。

 これによって与党モルディブ進歩党(PPM)の真意が問われている。「あまりにも素早い可決に、今はまだ誰もがショック状態にある。まったく前例のない事態だ」と、モルディブの主要ニュースサイト「ミニバン・ニュース」の編集長ザヒーナ・ラシードは言う。

 今後はモルディブのどこでも、外国人は自由に不動産を所有できる。外国人には土地の賃借しか認めなかった今までの方針からは画期的ともいえる転換だ。

 この憲法修正案は、議会では賛成票、反対票で可決された。反対派議員らは、今回の憲法修正がインド洋地域で中国に足掛かりを与えることになり、モルディブの北にある隣国のインドと中国の勢力バランスを崩すことになるとみる。

 というのも、投資額は事業計画1件につき最低10億ドル。土地の70%は、その投資により埋め立てた場所でなければならないという大掛かりな条件があるから。こんな投資ができるのは中国ぐらいだ。

 反対派は批判を強めている。「モルディブ外交の最優先課題はインド洋地域の安定を保つこと。今回の修正は中国のプレゼンス強化につながる」と、国会議員のエバ・アブドラは言う。彼女はモハメド・ナシード元大統領の率いる主要野党モルディブ民主党(MDP)から造反して修正案に反対票を投じた1人だ。「いま懸念されるのは、中国がモルディブに拠点を設け、モルディブをインド洋における中印対立の前線に置くことで勢力均衡を破るという可能性だ」

 半世紀前にイギリスから独立を勝ち取ったのに、国家としての自由を手放すのかとアブドラは与党を糾弾する。今回の憲法修正で「この国は中国の植民地になる」と、彼女は言う。

外交政策が急転換した

 アブドラ・ヤミーン大統領は憲法修正を承認した先月下旬、インド洋地域の安全保障に影響が及ぶことも、モルディブの主権が損なわれることもないと語った。「わが国はインド政府および近隣諸国に対し、インド洋を非武装地域として保つことを保証した」と、彼は主張した。

 インド側の専門家は懸念を隠さない。「中国を利する修正だ。70%の埋め立てができるのは中国だけ」と防衛研究・分析センターのアナンド・クマルは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マスク氏報酬と登記移転巡る株主投票、容易でない─テ

ビジネス

ブラックロック、AI投資で各国と協議 民間誘致も=

ビジネス

独VW、仏ルノーとの廉価版EV共同開発協議から撤退

ビジネス

米下院、貧困や気候問題の支出削減法案 民主党反対 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 2

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 3

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 4

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「香りを嗅ぐだけで血管が若返る」毎朝のコーヒーに…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中