最新記事

事件

集団セックス殺人、無罪確定の理由

男友達と共謀してルームメイトを暴行殺害したとして有罪判決を受けたアマンダ・ノックスを逆転無罪にした捜査ミス

2015年9月9日(水)17時30分
コナー・ギャフィー

裁判も見世物 ノックスが無罪になった理由の1つに過熱報道が挙げられている(09年) Alessandro Bianchi - REUTERS

 2007年11月、イタリア中部のペルージャで、イギリス人留学生の女性(21)が殺害された。この事件の裁判は当時、国際的に大きな注目を集めた。集団セックスを強要された上での惨殺だったこと、そして、被害者のルームメイトだったアメリカ人留学生の女性が被告の1人だったことがその理由だ。

 住んでいたアパートの寝室で、喉を切られ、半裸の状態で発見されたメレディス・カーチャー。性的暴行の痕跡もあった。4日後に逮捕されたのは、カーチャーとアパートをシェアしていた米シアトル出身のアマンダ・ノックス(当時20歳)と、彼女の恋人だったイタリア人のラファエル・ソレチト(当時23歳)だった。

 食い違う証言、不可解な証拠、ゴシップ誌にまで格好のネタを提供するノックス自身や彼女の家族の言動......。イタリアでもアメリカでも盛んに報じられ、特にアメリカでは冤罪との見方も広まったが、09年12月、ノックスは懲役26年、ソレチトは懲役25年の実刑判決を受けた。

 それがここに来て、逆転無罪だ。イタリアの破毀院(最高裁判所)は、捜査に「明白な誤り」があったとして、ノックス(現在28歳)とソレチト(現在31歳)に、カーチャー殺人の無罪を言い渡した。BBCによれば、2人のいずれも殺害と結びつく「生物学的痕跡がまったくない」ことを検察が無視したと、最高裁は結論づけた。

最高裁は検察側のミスをいくつも指摘

 これまでも、判決は二転三転してきた。約4年間の服役後、11年10月には、イタリアの控訴裁判所が証拠不十分としてノックスとソレチトに逆転無罪を言い渡した。しかし、14年1月に無罪判決は破棄され、禁固刑に。それが今年になって、また逆転無罪が確定したわけだ。

 9月7日に公表された判決理由書によれば、最高裁はいくつかのミスを指摘している。たとえば、捜査官がノックスとカーチャーのコンピュータを焼却したこと(新たな証拠が見つかっていたかもしれない)、14年に再び有罪判決を下した控訴裁が、証拠が汚染されている可能性を指摘した専門家のアドバイスを無視したこと。AP通信によれば、各国メディアの過熱報道も「捜査を急かす原因になった」と最高裁は結論づけているという。

 現在はシアトルに住むノックスは9月7日、「イタリアの最高裁が判決理由を公表し、私の無罪を強く宣言してくれたことに深く感謝している」とブログに書いた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中