最新記事

難民

地中海で溺れた赤ちゃん、難民の悲劇は止まらず

26日遅くリビアのサブラタ近くの港を出発したボートから小さな命が失われた──

2016年5月31日(火)19時19分

5月30日、先週だけで何百人もの難民が地中海で溺れたとみられるなか、救助隊員の腕に抱かれた溺れた赤ちゃんの写真が、人道支援組織によって公開された。写真はリビア沖で転覆するボート。伊海軍が25日に公開した。ドイツの人道支援組織によって27日に引き上げられた、溺れた赤ちゃんが乗っていたボートとは異なる(2016年 ロイター/Italian Marina Militare)

 先週だけで何百人もの難民が地中海で溺れたとみられるなか、救助隊員の腕に抱かれた溺れた赤ちゃんの写真が30日、人道支援組織によって公開された。この組織は欧州当局に移民の安全な移動経路を確保するよう訴えている。

 1歳未満とみられるこの赤ちゃんは27日、木製ボートが転覆した後、海から引き上げられたという。その2日後には、45の遺体がイタリア海軍の艦船によって、同国南部のレッジョ・ディ・カラブリア港に搬送された。この艦船は同じ転覆事故からの生存者135人も救助している。

 寝ている赤ちゃんをあやすかのように抱くドイツの救助隊員を写した画像は、リビアとイタリア間で救助ボートを運航するドイツの人道支援組織シー・ウォッチが公開した。同乗していたメディア製作会社が撮影したという。

 この救助隊員は、海の中で「腕をいっぱいに広げた、人形のような」赤ちゃんを発見したとメールで語っている。彼はマーティンと名乗り、苗字は明らかにしなかった。

 「私は赤ちゃんの前腕をつかみ、まだ生きているかのように、その軽い身体を守ろうと、すぐに腕の中に抱き寄せた。小さな指と腕を宙に伸ばしていた。その明るく人懐っこいが、動かない瞳に、太陽の光が差し込んでいた」

3児の父親であり、音楽療法士を職業とするこの救助隊員は、「自分を慰め、この理解しがたい悲痛な瞬間を表現するために歌い始めた。6時間前にはこの子どもは生きていた」と述べた。

 昨年、トルコの海岸に打ち上げられた3歳のシリア難民アイランちゃんの写真と同様に、この写真も2014年初頭から地中海で死亡した8000人以上の人々について、その苦しみを生々しく伝えるものとなった。

 シー・ウォッチによると、イタリア海軍に直ちに引き渡されたこの赤ちゃんについての詳細は不明だという。救助隊員も一部服を着たままだった乳児が男か女かも確認することができなかった。また、赤ちゃんの父親や母親が生存者の中にいるかどうかも分かっていない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米財務長官、ロシア凍結資産活用の前倒し提起へ 来週

ビジネス

マスク氏報酬と登記移転巡る株主投票、容易でない─テ

ビジネス

ブラックロック、AI投資で各国と協議 民間誘致も=

ビジネス

独VW、仏ルノーとの廉価版EV共同開発協議から撤退
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 2

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 3

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 4

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「香りを嗅ぐだけで血管が若返る」毎朝のコーヒーに…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中