最新記事

監督インタビュー

台湾生まれの日本人「湾生」を知っていますか

2016年11月15日(火)17時40分
大橋 希(本誌記者)

wansei01.jpg

かつての友人たちを訪ねて、何度も台湾を訪れている冨永勝(左から2番目)。中学生だった46年に台湾から引き揚げた ©田澤文化有限公司

――台湾では日本に対する国民感情がいいと言われる。占領したことには変わりないが......。

 50年間の日本による統治があり、台湾の人たちはその後も日本に対して懐かしい思い、親日的な思いを抱いていた。政治的、歴史的に言えば台湾人は被害者で、日本人は加害者なので不思議なことでもあるが。その背景には日本が引き揚げた後にやってきた中国の国民党が非常に高圧的な政治をしいたことがある。それと比較して日本の方が良かったということだろう。

「日本を好きでいてくれるアジアの国があったと知って嬉しい」という家族の方の言葉が映画に出てくるが、撮影中に聞いたときには「そんな風に思うのか」と驚いた。日本は歴史の重荷を背負っている。たとえ昔の人がしたことであっても、現代のわれわれが背負っていることなんですね。

――湾生の1人である、片山清子(在台湾)の母親のお墓をめぐる話が感動的だった。撮影する側もかなり尽力したのではないか。

 清子さんは(離ればなれになった)母・千歳さんの写真も持っていないし、どういう人かまったく分からなかった。日本にあるお墓を清子さんの家族が探したが見つからなくて......。映画の中での出来事は、本当に不思議な縁があったと思う。僕はこの映画を撮影しているとき、なんとなく誰かが見守ってくれているような気がしていた。映画がうまく撮れるように、と。それはおそらく千歳さんだったのではないかと思うんですよ。

【参考記事】デキちゃったブリジットの幸せ探し

――映画の中では「異邦人」というキーワードが出てくる。アイデンティティーについては台湾の人々も問題意識があるのだろうか?

 台湾の歴史の背景というのは非常に複雑で、オランダ、スペイン、日本の植民地になり、さまざまな文化が混ざり合っている。私の妻は、髪が少し赤っぽいので「オランダ系」と言われる。本当にオランダ人の血を引いているかどうかは、昔は戸籍などもないので分からないが、そういうことがあると人々は認識している。例えば、淡水という街にはオランダ人が築いた砦「紅毛城」が残っているし、外国と関わりのある地名も各地にある。植民地だった歴史が台湾の文化を豊かにしている側面もある。
 
 一方で、自分がいったい何者なのか分からない、「異邦人」のような状態も生まれ得る。日本の植民地時代は「日本人」とされていて、49年に国民党が台湾に来ると「中国人」になったように。台湾にはもう1つの異邦人もいる。それは中国大陸から蒋介石とともに台湾に渡ってきた外省の人々で、彼らは大陸に二度と帰れなくなってしまった。彼らもまた湾生と同じように、戦争が生んだ異邦人だろう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

再送NY外為市場=ドル上昇、FRB当局者発言を注視

ビジネス

米国株式市場=S&Pとダウ上昇、米利下げ期待で

ワールド

米、イスラエルへの兵器輸送一部停止か ハマスとの戦

ビジネス

FRB、年内は金利据え置きの可能性=ミネアポリス連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 6

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 10

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中