最新記事

ヨーロッパ

従業員のスカーフ禁止容認判決で、イスラムと欧州の対立深まる

2017年3月15日(水)17時40分
ルビー・メレン

中道右派のフランス大統領候補で、『Conquering Islamic Terrorism(イスラム系テロリズムの打破)』の著者でもあるフランソワ・フィヨンは今回の判決について、「欧州社会全体の融和と平和に貢献するものだ」と称えている。

その一方で、テロの専門家からは、今回の判決により過激派が勢いづくおそれがあるとの指摘も出ている。欧州在住イスラム教徒の孤立感を強め、聖戦主義者に勧誘の糸口を与える可能性があるためだ。

「スカーフやブルカの禁止や入国制限は、過激派組織を利するだけだ。彼らのプロパガンダや勧誘の活動を勢いづかせることになる」。ハーグ戦略研究センターのアナリスト、レニエル・ベルジェマは本誌にそう語っている。

フランス極右も反対

EUにとっては厄介な話だが、スカーフをめぐる論争は、フランスの極右政党「国民戦線」にも利用されている。国民戦線のマリーヌ・ルペン党首は、路上で礼拝するイスラム教徒を、ナチスによるフランス占領に喩えたことがある。

さらに2017年2月のレバノン訪問中には、イスラム宗教指導者との会談時にスカーフ着用を求められるとこれを拒否し、会談をキャンセルしている。

イスラム教以外の宗教指導者も、特定の宗教に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)が増加している欧州の現状を指摘し、今回の判決は宗教差別を煽るだけだと述べている。ユダヤ教指導者で構成される欧州ラビ評議会のピンカス・ゴールドシュミット会長は、「今回の判決や人種差別的な事件を見る限り、欧州が発しているメッセージは明らかだ。異教徒はもはや歓迎されない」と語り、宗教的少数派を孤立させてはならないと警告を発した。

スカーフの判決により孤立がさらに深まることになるのか、先行きはまだ不透明だ。

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国自動車輸出、4月は過去最高 国内販売は減少に減

ワールド

UNRWA本部、イスラエル住民の放火で閉鎖 事務局

ワールド

Xは豪州の法律無視できず、刃物事件動画訴訟で規制当

ビジネス

ドイツ住宅建設業者、半数が受注不足 値下げの動きも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカネを取り戻せない」――水原一平の罪状認否を前に米大学教授が厳しい予測

  • 4

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 5

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 6

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 7

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中