最新記事

サイエンス

太陽光だけで二酸化炭素をエネルギー資源に変換する新たな分子が誕生

2017年3月21日(火)18時50分
松岡由希子

temmuz can arsiray-iStock

<米インディアナ大学ブルーミントン校の研究チームは、光や電気を使って二酸化炭素から燃料を生成する分子を新たに開発したことを明らかにした>

光合成とは、太陽光などの光エネルギーを使って、水と二酸化炭素から炭水化物を合成する生化学反応のこと。自然界では、植物や植物プランクトン、藻類など、光合成色素を有する生物が、光合成によって、必要な養分をつくりだしているが、近年、この仕組みを模倣し、人為的に光合成させる人工光合成の研究開発がすすめられている。

米インディアナ大学ブルーミントン校の研究チームは、2017年3月、学術雑誌「米国化学会誌(JACS)」で、光や電気を使って二酸化炭素から燃料を生成する分子を新たに開発したことを明らかにした。

【参考記事】光合成する電池で温暖化をストップ
【参考記事】人工の葉っぱとバクテリアで、太陽光から液体燃料を生み出す技術

この分子は、鉛筆の芯として広く用いられているグラファイト(黒鉛)をナノメートルサイズにしたナノグラフェンに、レアメタル(希少金属)のひとつであるレニウムを結合させたもの。ナノグラフェンが太陽光からエネルギーを吸収し、レニウム原子に電子を流し込むと、レニウム原子がこれらの電子を使って二酸化炭素を一酸化炭素に還元する。

つまり、ナノグラフェンが"エネルギー捕集体"として機能し、レニウムが一酸化炭素を生成する"エンジン"の役割を担っているわけだ。一酸化炭素は、自動車用燃料に利用可能な合成ガスに変えることで、エネルギー資源として活用できる。

太陽光を使って二酸化炭素を一酸化炭素に還元する手法はこれまでも研究されてきたが、二酸化炭素の還元に利用できる太陽光は、紫外線領域のごく一部の波長に限られていた。これに対して、ナノグラフェンは、最大600ナノメートルの波長まで光を吸収することができるのが利点。二酸化炭素から一酸化炭素への還元において、太陽光エネルギーをより有効に利用できる。

研究チームでは、今後の課題として、この分子の強度と耐久性を向上させるとともに、希少なレニウムに代わる素材の必要性を挙げている。マンガンなど、より安価で一般的な素材に代替されることが望ましい。

太陽光だけで二酸化炭素をエネルギー資源として再生できるこの分子は、温暖化ガス排出量の削減とエネルギー資源の確保という一挙両得を実現する技術として大いに期待できそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トムソン・ロイター、第1四半期は予想上回る増収 A

ワールド

韓国、在外公館のテロ警戒レベル引き上げ 北朝鮮が攻

ビジネス

香港GDP、第1四半期は+2.7% 金融引き締め長

ビジネス

豪2位の年金基金、発電用石炭投資を縮小へ ネットゼ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中