最新記事

BOOKS

AV強要の実態に、胸を締めつけられ、そして驚かされる

2017年5月30日(火)11時52分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<アダルトビデオ業者の非道さと、一部の女性の無防備さ。『AV出演を強要された彼女たち』が明らかにする日本の性の貧しさ>

AV出演を強要された彼女たち』(宮本節子著、ちくま新書)の著者は、「ポルノ被害と性暴力を考える会」世話人。女性や子どもに対するポルノ被害や性暴力を訴える社会活動に取り組んでいるのだという。そしてタイトルからわかるとおり、そのようなキャリアをもとに書かれた本書は「AV出演を強要された」女性に接して真実を探り、その実態を明らかにしたノンフィクションである。


 私たちは、現在常勤換算の実働で約四・五人(ボランティアがたくさんいる)ほどが活動しており、(中略)二〇一六年八月末現在の累計で二一八件の相談に対応してきた。どの事例もそれぞれに異なり、誰一人としておろそかにはできない独自の問題を抱えている。(18ページより)

著者は実際に携わってきた5事例をベースとしながら、それぞれの経緯を紹介している。もちろん、AV女優として自己実現を図ったり自己充実を感じる女性がいたり、職業としてAV女優を自ら選んでいる女性たちがいることも認めたうえでのことだ。が、ここで紹介されているのは、あくまでもアダルトビデオに出演したことによって自分の生活や身体、精神が強く脅かされ、侵害されたと感じる女性たちである。

【参考記事】沖縄の風俗業界で働く少女たちに寄り添った記録

最初に登場する20歳の女子大生、Aさんの話がすでに重たい。モデルになることを夢見て、進学と同時に一人暮らしをしていた彼女の日常は、渋谷でスカウトマンに声をかけられたことから大きく狂いはじめるのだ。

目立って美しい容姿の彼女は、高校生のころからよくスカウトマンに声をかけられていた。そのため、当然ながら最初は拒絶。ところが、あまりにもしつこいので「話だけ聞いて断ればいい」と思って喫茶店について行った結果、話は終電間際まで続くことに。最終的には根負けし、早く逃れたいという思いから契約書に署名捺印してしまったというのである。

「そんなに簡単に?」と思われるかもしれない。が、終電間近まで自由を奪われたのでは、精神的に疲弊してしまっても無理はない。そしてこれは、何時間も拘束した挙句、商品を押し売りする詐欺のやり口ととても似ている。

ちなみにこの時点では、「モデル」の仕事をすることになるんだろうと思っていたのだそうだ。

しかし、深夜に帰宅してから「やはり断らなければいけない」と考える。ちなみに著者はこの決断について、「彼女の大きな間違いは、断る作業を一人でしようとしたことにある」と記している。


 数日後、Aさんはプロダクションの事務所に電話を入れた。
「あのお話はお断りしたいです」
 プロダクションはいとも簡単に言った。
「そうか! せっかくの話なのに断りたいの? 契約破棄に関してはもっといろいろ相談したいね。ついてはうちの事務所に来てくれないか。」
 ちなみに契約破棄のために事務所にわざわざ本人が赴く必要はない。本人の意思を伝える手段は、メールでも手紙でもいくらでもある。
 しかし、彼女は約束の日時にプロダクションに出かけていった。もちろん、契約を破棄するつもりで、だ。そして、もちろん、一人で行った。
 プロダクションでは準備万端整っていた。
 Aさんはそこで強姦されて、その映像を撮られた。この映像そのものがその後どのように扱われたか、Aさんは知らない。私たちにもわからない。確実に言えることは、強烈な脅しとして機能したということだ。
 後日、"出演料"が彼女の口座に振り込まれた。(26~27ページより)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中