最新記事

海外ノンフィクションの世界

消費者の心に入り込む「選ばれるブランド」のつくり方

2017年5月16日(火)15時14分
手嶋由美子 ※編集・企画:トランネット

印象的なセンテンスを対訳で読む

難解で抽象的な概念が、イメージ豊かに説明されているのも本書の魅力だ。こうした言葉は単なる説明にとどまらず、読み手の想像力をかき立て自由な発想を促してくれる。『「誘う」ブランド』の原書と邦訳からそれぞれ抜粋し、例をいくつか紹介したい。

●They've created their own brand worlds. For each you could imagine a planet; you could see the people in them, what they look like, what their jobs are, what cars they drive, and more.
(それらは独自のブランド世界を作り上げている。どのブランドをとっても、ひとつの惑星を思い浮かべることができる。そこに暮らす人々、彼らの姿や仕事、運転する車などが目に浮かぶ)

――「ブランド・ファンタジー」についての説明で、ウェーバーは惑星のイメージを繰り返し用いている。また、ブランド構築の手法としても、独自の惑星を思い浮かべることを勧めている。

●each one is a small piece of a large puzzle, and each piece plays a role toward building that one main mental image.
(個々の要素はパズルの小さなピースで、個々のピースがそれぞれの役割を果たし、ひとつの大きな心的イメージを作り上げる)

――個々の連想が結びつき、全体として一貫したひとつのブランド・ファンタジーができあがる様を、パズルのイメージを用いて説明している。

●Your brand starts out as an empty bucket, waiting to be filled with associations. At first, it's just an empty mental vessel. But with each and every interaction with your product and business, your consumer plops one more little association in the bucket.
(あなたのブランドは空っぽのバケツで、連想で満たされるのを待っている。はじめは、心の中にある空っぽの器にすぎない。しかし、あなたの商品やビジネスに触れるたびに、消費者は小さな連想をひとつずつバケツに投げ入れる)

――ダリル・ウェーバーは、ブランドはさまざまな連想の集まりだと繰り返し述べている。ここではバケツのイメージを使って、日々の暮らしの中でどのように連想が生まれ、集積されていくのかを説明し、このバケツをいっぱいに満たすのがマーケティング担当者の役割だと論じている。

◇ ◇ ◇

脳科学の研究成果にもとづいたウェーバーの論理展開には説得力があり、ブランドだけでなく、自分の思考や感覚の癖に気づくきっかけにもなるだろう。新しい発見はさまざまな分野に応用できるはずだ。

【参考記事】セックスとドラッグと、クラシック音楽界の構造的欠陥


『誘う」ブランド――
 脳が無意識に選択する。心に入り込むブランド構築法』
 ダリル・ウェーバー 著
 手嶋由美子 訳
 ビー・エヌ・エヌ新社

トランネット
出版翻訳専門の翻訳会社。2000年設立。年間150~200タイトルの書籍を翻訳する。多くの国内出版社の協力のもと、翻訳者に広く出版翻訳のチャンスを提供するための出版翻訳オーディションを開催。出版社・編集者には、海外出版社・エージェントとのネットワークを活かした翻訳出版企画、および実力ある翻訳者を紹介する。近年は日本の書籍を海外で出版するためのサポートサービスにも力を入れている。
http://www.trannet.co.jp/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・サウジ、安全保障協定で近く合意か イスラエル関

ワールド

フィリピン船や乗組員に被害及ぼす行動は「無責任」、

ワールド

米大学の反戦デモ、強制排除続く UCLAで200人

ビジネス

仏ソジェン、第1四半期は減益も予想上回る 投資銀行
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中