最新記事

キャリア

「準備はどう?」と質問されて「順調です」と答えてはいけない

2017年6月12日(月)10時45分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

NewAgeCinema_ru-iStock.

<質問こそが成功への鍵とよくいわれるが、重要なのはむしろ「応答力」。質問だけでは何も生まれないし、会話の主導権を握るのは質問ではなく答えだという。言語学者のウィリアム・A・ヴァンス博士が説く「答え方の戦術」>

いまアマゾンで「質問」あるいは「聞く」というキーワードで検索してみると、質問の重要性を説き、「良い質問」のテクニックを紹介する書籍がずらりと並ぶ。ミリオン突破のベストセラーから、医師のための技術書など、とにかく質問こそが成功への鍵を握るのだと訴えてくる。

その一方で、「答え方」に焦点を当てた本は、ほとんどない。しかもこれは、日本にかぎったことではないらしい。

本来、会話というのは「問い」と「答え」がそろってはじめて成り立つもの。だから、「質問力」と同じくらい「応答力」も磨く必要があるのではないだろうか。

そう唱えるのは、言語学者で認知科学者、そしてビジネス・コミュニケーションの権威でもあるウィリアム・A・ヴァンス博士だ。米イェール大学ビジネススクールなどで教鞭を執り、東アジアの人々に特有のコミュニケーションにも精通しているヴァンス博士は、日本の読者に向けたビジネス英語術に関する著書をいくつも発表している。

だが新著の『答え方が人生を変える――あらゆる成功を決めるのは「質問力」より「応答力」』(神田房枝・共著、CCCメディアハウス)は、英語によるコミュニケーションを前提としたものではない。言語に関係なく、グローバルに使える「答え方の戦術」がテーマだ。

そもそも、なぜこれほど「質問力」がもてはやされるのかと言えば、それは、ソクラテスをはじめとする賢人たちがこぞって質問の重要性を強調してきたからだという。もちろんヴァンス博士も、質問力は無用とは言っていない。だが、より重要なのは応答力のほうだと主張する。なぜなら、質問だけでは何も生まれないからだ。

質問をされた時にどう答えるか、その答え方が人生を左右し、あるいは成果を生む。そしてそれは、他人とのコミュニケーションにおいてだけではない。

質問だけではイノベーションは起きない

本書では映画『ビューティフル・マインド』の1シーンが引用されている。「ナッシュ均衡」でノーベル経済学賞を受賞した数学者、ジョン・ナッシュの自伝的映画のなかで、彼がそれをひらめいた瞬間のシーンだ。

友人たちとバーを訪れたナッシュは、同じく数人で来店した女性たちのグループを見て、こんな質問が頭に浮かぶ――「ぼくたち全員が、バーにいる女性の一人ひとりと確実にデートできる方法とは?」。

この手の質問なら、だれでも一度は頭に浮かんだことがあるはず。当然、ナッシュ以外の数多の数学者たちだって、同じように思ったことがあるに違いない。しかし、そこからノーベル賞に値する答えを導き出したのは、ナッシュただひとりだった。

ビジネスでも、あらゆることに疑問を抱き、「なぜ?」「もしも?」「どうすれば?」と問い続けることで新しい独創的なアイデアが生まれてくる、とされている。多くの優れた起業家たちも、そうやって世界を変えるイノベーションを起こしてきたのだ、と。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

企業向けサービス価格3月は2.3%上昇、年度は消費

ビジネス

スポティファイ、総利益10億ユーロ突破 販促抑制で

ビジネス

欧州委、中国のセキュリティー機器企業を調査 不正補

ビジネス

TikTok、簡易版のリスク評価報告書を欧州委に提
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中