最新記事

脳科学

なぜ人間は予測できない(一部の)サプライズを喜ぶのか

2017年6月21日(水)21時15分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

JohanJK-iStock.

<体調の悪い人に勝手にケアキットを送り、マーケティングを大成功させた企業がある。どうすれば「驚き」をうまく活用できるのか。脳科学が解き明かす、顧客に忘れられないためのビジネス戦略>

驚き、斬新さ、感情、文脈といった15の変数をうまく組み合わせて使えば、「あなたについての記憶は相手の心に残り、狙い通りの行動が引き出されるだろう」と、認知科学者のカーメン・サイモンは言う。

人の行動の9割は記憶に基づくといわれる。ビジネスにおいては、いかに顧客に自社の商品やサービスを記憶してもらい、消費行動を取ってもらうかが重要だ。Adobe、AT&T、マクドナルド、ゼロックスなどの大企業を顧客に持つサイモンは、著書『人は記憶で動く――相手に覚えさえ、思い出させ、行動させるための「キュー」の出し方』(小坂恵理訳、CCCメディアハウス)で"忘れさせない"実践的なテクニックを紹介している。

ここでは本書から一部を抜粋し、4回に分けて転載する。第3回は「第5章 驚きのパラドックス――さらなる注目・時間・関与を獲得する代価」から、15の変数の1つである「驚き」について。驚きはなぜ行動と結びつくのだろうか。

※第1回:謎の大富豪が「裸の美術館」をタスマニアに造った理由
※第2回:顧客に記憶させ、消費行動を取らせるための15の変数

◇ ◇ ◇

 2013年、クリネックスはフェイスブックとパートナー関係を結び、体調の悪いユーザーにケアキットを提供することにした。このキャンペーンを支援したイスラエルの広告代理店スモイズは、フェイスブックの投稿から、体調の悪さを訴えているユーザーを探し出した。そしてユーザーのメールアドレスを突き止めてから、お見舞いキットを送って回復を願った。まさにサプライズ! キットを受け取った人たちは心から感激して、全員が――ひとりの例外もなく――素晴らしい経験とそれに対する感謝の気持ちをオンラインで報告した。その結果マーケティング活動は口コミが拡散していくバイラルキャンペーンに発展し、65万人以上の人びとの注目を集めたのである。

 ただし驚きに対しては、常に寛大で好意的な反応が返ってくるわけではない。

 1970年代、駐米ルーマニア大使のコルネリウ・ボグダンは、アメリカとルーマニアが対戦するテニスのデビス・カップを観戦するため、ノースカロライナ州シャーロットを訪れて、まったくべつのサプライズに直面した。少人数の軍楽隊が間違って、共産主義国家になる以前の王国時代の国歌を演奏し始めたのだ。驚いたのなんの! ルーマニア大使はショックを受けた。これよりも小さな災難に巻き込まれた部下に対し、チャウシェスク大統領[訳注:独裁的権力者として君臨していた]は残酷な態度で臨んでいたのである。幸い音楽はすぐに中断され、主催者はべつの行事に切り換えてから、今度は正しい国歌で開会式をやり直した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米P&G、通期コア利益見通し上方修正 堅調な需要や

ワールド

男が焼身自殺か、NY裁判所前 トランプ氏は標的でな

ビジネス

ECB、6月以降の数回利下げ予想は妥当=エストニア

ワールド

IMF委、共同声明出せず 中東・ウクライナ巡り見解
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中