最新記事

ロシア政治

ロシアにおける「ロシア・ゲート」疑惑──戦略的思考か?疑惑の矮小化か?

2017年7月14日(金)17時00分
溝口修平(中京大学国際教養学部准教授)

疑惑を矮小化したいロシア

もちろん、米国大統領選挙への「介入」をロシア政府が否定しているので、このような反応はある意味当然だ。しかし、それに加えて、ロシアではこの疑惑が米国の国内政治問題であるという考えが強いことも影響している。

プーチン政権に近い政治学者であるフョードル・ルキヤノフ氏は、この騒動が「ワシントンの政治闘争の道具」であることをプーチンは心に留めておくべきだという助言を会談前にしていた

カーネギー・モスクワセンター所長で国際政治学者のドミトリー・トレーニン氏も、現在の米国の政治危機は南北戦争以来のものであり、この状況は2018年の中間選挙か2020年の大統領選挙までは続くと予想される、そして、ロシア政府はそのことを踏まえて対処すべきであると述べている。さらにトレーニン氏は、米ロ関係の危機を克服する上では、米国大統領の力を制限するような二重権力状態、そして、国内エリートのアンチ・ロシア・コンセンサスという2つの米国国内の事情を考慮する必要性があることも指摘している

プーチン自身も、このような考えを共有している。最近、映画監督のオリバー・ストーンがプーチンに密着したドキュメンタリーを撮影したが、ストーンの質問に対して、プーチンは、ロシアによる米国大統領選挙への介入は「嘘」であり、そのような嘘が広まっているのは、トランプ大統領の正統性を損なったり、米ロ関係の正常化の可能性を悪化させたりするためであると述べている。そして、ルキヤノフと同様、プーチンも、現在の米ロ関係は米国内の政治闘争のための単なる道具に過ぎないということを認めている

「ロシア・ゲート」疑惑が米国の国内政治問題であるという考え方は、この疑惑を二次的なものに矮小化したいというロシアの考え方を表しているとも言える。だからこそ、大局的・戦略的観点からの米ロ関係の展望に関するコメントが目立つのだ。

シリア問題やウクライナ問題に関する今回の合意は、これらの問題の根本的解決からは程遠いものであるが、米ロ関係の改善という意味では、その「成果」は肯定的に捉えられている。反対に、米国では、「ロシア・ゲート」疑惑の追求と払拭が主要な論点となっており、米ロ関係の現状を戦略的に理解しようとする視点は背後に退いてしまっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港中銀、政策金利据え置き 米FRBに追随

ワールド

米副大統領、フロリダ州の中絶禁止法巡りトランプ氏を

ワールド

シンガポールDBS、第1四半期は15%増益

ワールド

台湾のWHO総会出席、外相は困難と指摘 米国は招待
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中