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同乗レポート

日本人ウーバー運転手が明かす「乗客マッチング」の裏側

2017年7月20日(木)11時47分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

迎車リクエストをアクセプトしないで無視(放置)することは可能ではあるものの、無視し続けると運転手の評価の1つである「アクセプト率」が低下し、「リクエストが来る頻度が落ちるようにアルゴリズムが組まれている気がする」と西村は言う。

一方で、運転手も1日に2回までは自分自身で「行き先」を設定することができる。運転手が自分で行き先を選びたがるのは、ウーバーの料金は需要が高騰しているエリアでは基準値よりも高くなる仕組みだからだ(管轄地域によって違うが、ニューヨーク市内では最高3倍になる)。

乗せた客によっては郊外に連れて行かれ、客を降ろすと需要も料金も低い場所だった、ということもあるので、運転手としては稼げる「高騰エリア」に車を運んでいきたい(もっとも、客を乗せていない状態であれば、スタート地点をどこにするかはアプリをオフにしている限り1日に何度でも選ぶことができる。ただし、アプリをオフにして走るというのはその間は稼ぎが発生しないということ。逆にアプリをオンにした状態で行き先を「高騰エリア」に設定しておくと、走らせている途中でアプリがその方向に行きたい乗客をマッチングさせてくれる可能性が生まれ、客を乗せた状態で高騰エリアに向かうことができる)。

西村によれば、最も効率的に稼げるのは郊外の空港とマンハッタンを往復するルートだ。例えば「行き先」を空港方面に設定して車を走らせながら、途中で空港に向かう乗客を拾い、総じて常に需要が高いエリアである空港に着いたら「行き先」をマンハッタンに設定してマンハッタンを目指す客を拾う、といった具合に活用するのが理想だという。

「5分しか待てない」ニューヨーカーはすぐキャンセルする

もちろん、いつもそう上手くいくとは限らない。行き先を空港に設定して走り出した結果、途中で乗客を拾うことができずに手ぶらで空港に着いてしまったり、着いたはいいが需要がなければ配車サービス専用の駐車場で順番待ちを強いられることもある。

乗客の需要は天候や時間、飛行機の発着数によってまちまちで、時には駐車場で3時間待たされることもある。「3時間待った挙句に拾えたお客さんが実は空港の近所に住んでいて、時給計算がガタ落ちなんてこともあり得る」と、西村は語る。「そういう運にも左右されるのが、このゲーム(仕事)の難しいところだ」

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マンハッタンの街中を急いで乗客の元に向かう Satoko Kogure-Newsweek Japan

たしかに、西村が運転するウーバー車の助手席に乗っていると、このゲームを攻略するのが至難の業だということがすぐに分かる。まずウーバー以前に、マンハッタンを車で走ること自体、慣れていない人には難易度が高い。平日の朝10時~夕方6時は一方通行だらけで渋滞がひどいし、ニューヨーカーは道のど真ん中を平気で横切り、マンハッタンを埋め尽くすイエローキャブは運転の荒さで有名だ。

その上、混雑時のマンハッタンでは実際に乗客を拾えるかどうかが第一関門。せっかちなニューヨーカーは、運転手がリクエストをアクセプトして走り出しても、5~6分経つと待ちきれなくなって「キャンセル」してくるからだ。

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