最新記事

テクノロジー

ビットコイン大国を目指すスイスの挑戦

2017年7月29日(土)11時20分
ソニア・ジュラブリョーワ

スイスのツークでは町役場での支払いにもビットコインが使用可能 Arnd Wiegmann-REUTERS

<法整備と安全性の確保に手間取る他国に先駆け、金融立国スイスは仮想通貨ビジネスを全力で後押しする>

チューリヒ(スイス)から南に約20キロ、アルプスの絶景に抱かれた小さな町ツークで、小さな機械が大きな仕事をしている。ここに本社を構えるビットコイン・スイス社が設置した専用のATMだ(スイス全土では13台ある)。

ATMにスイスフランかユーロを入れると、相当額のビットコインを表すコードの印刷された紙が出てくる。これをスマートフォンで読み取れば、暗号通貨はあなたのものだ。

暗号技術を使った仮想通貨ビットコインに、そもそもATMは必要ない。ビットコインはサトシ・ナカモトを名乗る謎の人物が書いたコードであり、09年に「発行」されたが実体はない。ただ、暗号通貨を使ってみたいけれど何もないのは不安......という人にはATMが役に立つ。

ビットコインのATMという型破りな発想も、ツークならではのもの。人口3万人の町は暗号通貨ビジネスを引き寄せ、今や金融界でシリコンバレーならぬクリプト(暗号)バレーと呼ばれている。

5年前に金融サービスのマネタス社を立ち上げたのは南アフリカ出身のヨハン・ゲベルス。同社のシステムを使えば、ビットコインを含むあらゆる通貨を世界中に格安で送金できる。その後もツークでは暗号通貨関連の起業が相次ぎ、今ではビットコインのライバル通貨イーサを発行するイーサリアムなど、20社ほどを数える。

最初に起業家を引き付けたのは政治の安定と規制の緩さだが、ふたを開けてみれば、スイス人は彼らの斬新なアイデアに予想以上にオープンだった。

ビットコインを使えば銀行やカード会社を介さずに、匿名で決済できる。政府の介入を嫌いテクノロジーに明るい人々は、国家や銀行に縛られないビットコインを歓迎している。

「私たちが目指すのは金融制度の分散化だ」と、ゲベルスは言う。「世界で最も地方分権が進んだスイスは、私たちの取り組みを脅威ではなくチャンスと捉え、理解してくれる」

世界金融危機の余波でアメリカが国外の秘密口座を厳しく取り締まるなか、金融大国スイスは生き残り策を模索している。

09年にはアメリカの司法省と税務当局が、脱税を幇助しているとしてスイスの銀行大手UBSとクレディ・スイスに巨額の罰金を科し、口座を所有するアメリカ人脱税者の情報を提供するよう、スイスの銀行業界に迫った。租税回避地としてのスイスは、これで事実上終わりを告げた。

【参考記事】仮想通貨が急騰、ビットコインを上回る人気銘柄も続々登場

規制の動きに戦々恐々

そんなスイスにとって、ビットコインは期待の新市場だ。昨年にはビットコイン取引システム技術への世界での投資額が14億ドルに到達。スイスは暗号通貨の中心地を目指し、事業を後押しする形で法整備を進めてきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、20万8000件と横ばい 4月

ビジネス

米貿易赤字、3月は0.1%減の694億ドル 輸出入

ワールド

ウクライナ戦争すぐに終結の公算小さい=米国家情報長

ワールド

ロシア、北朝鮮に石油精製品を輸出 制裁違反の規模か
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中