最新記事

メンタルヘルス

イギリス音楽業界、心を病む人が国民全体と比べ3倍で、ホットライン開設

2017年10月27日(金)18時40分
松丸さとみ

Help Musicians UK-YouTube

パニックアタックやうつ、約7割が経験

英国のミュージシャンは、うつ病になる可能性が一般の人と比べ3倍になることが分かった。この調査結果を受けて、慈善団体ヘルプ・ミュージシャンズUKは、電話で24時間365日健康相談できるホットラインを設立すると発表した。

調査は、ヘルプ・ミュージシャンズUKが依頼し、ウェストミンスター大学と同大の独立系音楽シンクタンク「ミュージックタンク」が2016年11月に開始。音楽業界全体を対象に行い、今年10月に発表したもの。回答者数は2211人で、音楽とメンタルヘルスについての学術調査としては世界最大となった。

報告書によると、「パニックアタックや強い不安を経験したことがある」と答えた人は、71.1%に上った。また、「うつに苦しんだ経験はあるか」との問いに、「ある」と答えた人は69%だった。一方、報告書は英国統計局が2010〜2013年に行なったデータを引用し、16歳以上の英国民でうつやひどい不安を経験したことがある人の割合は19%だったとしている。つまり、音楽業界では一般国民の3倍近い人が、精神的に苦しんでいる可能性が高いことになる。

「経済的な不安」、「労働環境の悪さ」、「セクハラ」

ミュージシャンが精神衛生面で追い詰められる原因として、報告書は「経済的な不安」、「労働環境の悪さ」、「性差別・ハラスメント」などを挙げている。

「経済的な不安」の要素としてヘルプ・ミュージシャンズUKが挙げているのは、音楽業界での仕事は多くの場合、不安定で予測不能だという点だ。「生計を支えるのが難しい」と感じている人も多いようで、結果として、複数の仕事をかけもちし、なかなか休みが取れない状態になってしまう、と指摘している。

「労働環境の悪さ」としては、「非社交的な労働時間」、「計画を立てられない」といった声が挙げられていた。ヘルプ・ミュージシャンズUKは、ミュージシャンは常に批判的なフィードバックに耐える必要がある一方で、多くが個人事業であり、孤立感を味わうことが多い、と述べている。そうした環境が、精神的に追い詰められる状況に追いやっているのかもしれない。

また、「性差別的な態度」、「セクハラ」などを挙げた回答も多く、報告書は、女性が英国音楽業界で活動することの難しさを指摘している。なお今回の調査では、女性の回答者は男性より若干少なかった(男性55.2%、女性43.9%)。

また、助けを求めるにしても、どこに連絡していいのか分からない、という声や、相談に行ったとしても、不要で高価な薬を処方される、薬物治療以外だと高価になる、などといった不満があるようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中