最新記事

ドキュメンタリー

アイ・ウェイウェイが映す難民の現実『ヒューマンフロー』

2017年11月8日(水)10時30分
ジョシュア・キーティング(フォーリン・ポリシー誌編集者)

「ヒューマンフロー」は世界23カ国で撮影され、さまざまな状況にある難民の姿を映し出した。監督の艾もしばしば登場する(写真左) Photo Courtesy of Amazon Studios

<祖国を追われた中国の芸術家で反体制活動家のアイ・ウェイウェイが、「人間の危機」を告発するドキュメンタリー>

「ただのドキュメンタリーを作るつもりはなかった」と、艾未未(アイ・ウェイウェイ)は言う。それはそうだろう。壮大で前衛的な作品を発表し続ける現代美術家で、著名な反体制活動家でもある艾が、ただのドキュメンタリー映画を撮るわけがない。

最新作は題して『ヒューマンフロー』(人の流れ)。イラクの難民キャンプから、イスラム系少数民族ロヒンギャの流入が続くバングラデシュの村、ギリシャの海岸、アメリカとメキシコの国境まで、世界各地23カ国に出掛けて撮った映像を幻想的につないでいる。実写・実録という点ではドキュメンタリーだが、その映像が語るのは「人は流れ者」という作家自身の世界観だ。

実際、中国人の艾未未も今は流れ流れてドイツに住む。この映画に登場する人たち同様、彼も政治的な理由で祖国を追われた。中国当局によって北京五輪後の2011年にパスポートを取り上げられたが、なぜか4年後に返却されたため、艾は15年に出国してドイツへ移り住んだ。

北京五輪ではメイン会場「鳥の巣」の設計に協力するなど、かつては中国政府のお気に入りだった艾だが、その後は共産党批判を強め、81日間にわたり拘禁されたこともある。「今の私は自分の故郷に受け入れられない。彼らは私を敵と見ている。私が国の現状を案じ、人々を案じているからだ」

それでも、できることなら祖国に帰りたいと思う。「あの国の言葉を話すし、あの国の土地もよく知っている。母はまだあの国に住んでいる。たくさんの友人もいる。でも帰るのは無理だろう。状況は厳しくなる一方だ。多くの友人がまだ刑務所にいる」

艾は欧米諸国に対しても辛辣だ。「これを撮っていて驚いたのは、民主的な、いわゆる自由世界に暮らす恵まれた人々が、あまりにも人間の苦しみに無関心なことだ。これは難民の問題じゃない。人間の危機であり、助けることができるのに助けようとしない人々の危機だ」

自分が「恵まれた人」の一員であることは承知している。この映画には、バルカン半島の難民キャンプにいる若者と艾がパスポートを交換するシーンがある。もちろんジョークだが、そこで2人の立場の違いが浮き彫りになる。

magc171108-ai01.jpg

magc171107-ai02.jpg

magc171108-ai03.jpg

Photo Courtesy of Amazon Studios

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アマゾン、インディアナ州にデータセンター建設 11

ビジネス

マイクロソフト出資の米ルーブリック、初値は公開価格

ビジネス

東京都区部CPI4月は1.6%上昇、高校授業料無償

ワールド

北朝鮮の金総書記、25日に多連装ロケット砲の試射視
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中