最新記事

タックスヘイブン

米共和党の資金移転課税案、欧州の多国籍企業に打撃も

2017年11月9日(木)10時00分

11月5日、米下院共和党が2日発表した税制改革法案には、外資系企業の米国法人が外国のグループ企業に資金を移した場合、20%の税率を課す措置が盛り込まれた。写真中央はトランプ米大統領。ワシントンで2日撮影(2017年 ロイター/Carlos Barria)

米下院共和党が2日発表した税制改革法案には、外資系企業の米国法人が外国のグループ企業に資金を移した場合、20%の税率を課す措置が盛り込まれた。多国籍企業は困惑しており、世界的なサプライチェーンに支障を来す恐れもある。

法案が成立した場合、特に米国で稼ぎ出した利益を税率の低い本国に移転して米国での税金を低く抑えてきた欧州企業が、大きな痛手を被ることになりそうだ。

法案では、外国から商品を輸入している米国内の法人が外国の親会社や関連会社などにロイヤルティや手数料などの名目で1億ドルを超える資金を移した場合、(1)移した資金の20%を税金として支払う(2)米国事業に関連した所得として米国での課税に同意する──のいずれかを選択することになる。

専門家によるとこの提案は、海外子会社などとの取引に関する「移転価格税制」を企業が悪用し、米国での課税を減らす慣行を標的にしている。

ワシントンを拠点とする超党派のシンクタンク、税政策センターのシニアフェロー、スティーブン・ローゼンタール氏は「移転価格の問題は厳然としてあり、何らかの手を打つべきだ」とした上で、「資金移転への20%課税は、この問題に対処するための鈍器だと私はみている」と語り、精度が劣るため、狙った企業に課税できるとは限らないとの見方を示した。

かつて米財務省で税務政策担当の次官補を務め、現在は会計事務所アーンスト・アンド・ヤングのコディレクターであるマイケル・マンダカ氏は、外国製品を米国内の流通子会社を通じて販売している欧州企業が最も大きな影響を受ける可能性があると話した。

これらの企業は、二国間の租税協定が改正されない限り、米国と本国で二重課税される恐れもあるという。

ムンダカ氏は、「欧州の当局者らは今頃、米財務省の担当者に連絡して説明を求め、協定に違反する恐れがあると主張しているに違いない」と述べた。

また保守系シンクタンクであるタックス・ファウンデーションのエコノミスト、ギャビン・エキンズ氏は、大半の多国籍企業は米法人税としての課税を選び、資金移転への課税回避を選択すると予想した。

[ワシントン/ロンドン 5日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2017トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ロイターネクスト:米第1四半期GDPは上方修正の可

ワールド

バイデン氏、半導体大手マイクロンへの補助金発表 最

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中