最新記事

亡命

応急処置で肺に針を 北朝鮮亡命兵士、救出から6時間の手術まで

2017年12月5日(火)16時40分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

イ・グクジョン医師ら亜州大学病院のスタッフが懸命に医療活動にあたった YTN news / YouTube

<銃撃を受けた北朝鮮の亡命兵士を救ったのは韓国人医師たちによる懸命な医療行為だった>

11月13日、板門店の軍事業界線を越えて韓国側に脱北してきた亡命兵士。彼が現在も治療を受けている病院に運び込まれたときの映像をCNNが公開し、当時の緊迫した状況が改めて浮き彫りになった。

CNNによると、亡命兵士は米軍のヘリコプターによって、京畿道水原市の亜州大学病院の緊急医療センターに運び込まれてきた。

イ・グクジョン亜州大学病院重症外傷センター長ら医療チームがストレッチャーに移し替えて手術室に運び込んだ当時、兵士は腹部と右側骨盤、両腕、脚など5か所以上に銃撃を受けてから25分が過ぎていた。


CNNの報道は韓国メディアでも紹介された YTN news / YouTube

「半分よりはるかに多くの血液を流して、低血圧とショックで死にかけていた。まるで割れた瓶のような状態で、充分な血液を送り込むことが出来なかった」とイ医師は語る。

10数名の医療チームが彼を手術台に乗せ、最初30分は彼の呼吸を維持させようと懸命の作業を行ったという。ようやく落ち着いたのもつかの間、さらに深刻な事態が発生した。

兵士の体内から銃弾を取り除くための手術は5時間かけて行われたが、腸の傷をふさごうとしたところ、寄生虫が出てきたという。また、手術中、何度か兵士の容体が不安定になることがあった。イ医師はこの兵士が手術台で亡くなるのではないかと考えたという。「彼が助かったのは奇蹟だ」と語る。

手術後に意識を取り戻した兵士は、すぐに自分がいるところがまだ北朝鮮ではないかと心配していたという。イ医師は「兵士に、ここは本当に韓国だよね?と聞かれたので、私がこの太極旗(韓国の国旗)を見てごらん、と答えてあげた」とCNNに語った。

CNNは今回の亡命兵士への緊急手術のほか、多数の救急患者を救ったイ医師ら亜州大学病院重症外傷センターの日常の活動も紹介。こういった日々の医療活動の実績の積み重ねが、北朝鮮からの亡命兵士の命を救った鍵だったと紹介した。

イ医師に関しては、亡命兵士の手術後に行った記者会見で、兵士の腸から寄生虫や未消化のトウモロコシの芯が見つかったことなどを紹介した点について、「亡命兵士の人権を傷つけた」と非難する声が韓国国内で巻き起こった。今回CNNの取材に応じて手術当時の映像を公開したのは、こうした批判する国内世論への反論という意味もあるようだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ゆうちょ銀、3月末の国債保有比率18.9%に CL

ビジネス

4月訪日外国人、19年比4%増 2カ月連続300万

ビジネス

4月末国内公募投信残高は前月比0.1%減の226.

ビジネス

みずほFGの今期純利益見通し10%増の7500億円
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中