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アラバマ州上院補選、負けてホッとした共和党

2017年12月14日(木)13時14分
安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)

今回の敗北は、そうした状況を変える口実になり得る。手持ち議席の少なさを理由に、民主党との協調を模索する手はあるだろう。

糸口はある。トランプ大統領の公約であるインフラ投資だ。現在米国では、2018年にトランプ政権が推進する政策の候補として、インフラ投資が取り沙汰されている。オバマケアの改廃に手こずったこともあり、これまでトランプ政権はインフラ投資に関する議論を全く進められてこなかった。そもそもインフラ投資は、民主党が好む政策である。上院の勢力図が変化するタイミングにあわせ、インフラ投資で民主党に協力を呼びかける展開が考えられる。

その一方で、2018年の政策課題としては、低所得者向けの公的医療保険(メディケイド)や同じく低所得者向けの食糧費補助(フードスタンプ)など、社会福祉制度での歳出削減も浮上している。民主党が強く反対する政策であり、こちらを優先課題に選んだ場合には、これまで以上に党派対立が激化しそうだ。

税制改革は加速

共和党にとって幸いなことに、大詰めを迎えている税制改革の審議は、補選結果の影響を受けずに済みそうだ。アラバマ州での手続きを考えると、当選したジョーンズ候補が正式に就任するのは、来年1月以降になる見込みである。共和党が目指すように、年内に税制改革の内容がまとまれば、現有議席での成立に持ち込める。

むしろ、ジョーンズ候補の就任までに決着をつけなければならなくなったことで、税制改革に関する議会での調整は加速している気配がある。共和党は、アラバマ補選の結果が出た当日中に、税制改革の大枠で上下院が合意したと発表している。

年内に税制改革が実現すれば、共和党にとって2018年の幕開けは、新たな優先課題を選ぶ節目となる。補選の結果を受けて、民主党への歩み寄りを選ぶのか。それとも、あくまでも対決路線を貫くのか。大きな決断になりそうだ。

yasui-profile.jpg安井明彦
1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、2014年より現職。政策・政治を中心に、一貫して米国を担当。著書に『アメリカ選択肢なき選択』などがある。

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