最新記事

日中関係

習近平の深謀が日中和解のサインに潜む

2017年12月29日(金)08時30分
ミンシン・ペイ(クレアモント・マッケンナ大学ケック国際戦略研究所所長)

事件から80年の節目に習が見せた自制の意味は(写真は14年の追悼式典) Aly Song-REUTERS

<対日関係改善の意思をにじませる中国――狙いはアメリカの「対中封じ込め」封じ?>

日本が尖閣諸島(中国名・釣魚島)を国有化したのを受けて日中関係が冷却化してから5年余り。中国はやっと関係改善に意欲を示しているように見える。

実際、中国のサインは曖昧なものだった。17年12月13日、習近平(シー・チンピン)国家主席は「南京大虐殺犠牲者国家追悼日」の追悼式典に出席。5年前から「中国の夢」という国家主義的なスローガンを掲げている習だが、今回の式典では演説しなかった(14年に国家追悼日を制定し、初の式典に出席した際は演説している)。

日中関係を定義してきた事件から80年という節目だけに、異例ともいえる習の対応は、ようやく日本に歩み寄る用意ができたのかと臆測を呼んでいる。

問題は、習が安倍晋三首相との関係改善を望む動機だ。安倍は中国の国営メディアから反中政治家とたたかれてきた。中国がここへきて対日政策を転換するのには、差し迫った理由が少なくとも3つある。

最も基本的なレベルでは、中国の対日強硬策が逆効果になっていること。中国は13年に、尖閣諸島上空を含むADIZ(防空識別圏)を設定するなど強硬策に打って出た。尖閣諸島周辺海域に艦船を送り、日本の領空に国家海洋局の航空機を飛ばしたこともある。日本との高官レベルの接触も中断している。

中国にとってはあいにくだが、こうした戦術は期待どおりの効果を上げてはいない。安倍は中国の圧力の前に引き下がるどころか、逆にアメリカに接近している。習から見れば、より柔軟なアプローチを試みるほうが賢明かもしれない。

加えて、朝鮮半島の核危機も習に日中関係改善を迫っている。アメリカの政策に影響を与えるにはアメリカとアジアにおける2大同盟国――韓国と日本――を引き離さなければならないと、習は考えている。韓国との関係は在韓米軍へのTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備をめぐってこじれていたが、中国は既に韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領に接近。就任後初めて訪中した文と12月14日に首脳会談を行い、中韓の雪解けをアピールした。

習の次なるターゲットは日本だ。対日関係がより安定し改善すれば、朝鮮半島問題でドナルド・トランプ米大統領に対する影響力を手にできるはずだと、習は考えている。

対日政策の根本は不変

最後に、中国が日本に歩み寄るもう1つの重要な動機は、米中関係の大幅な悪化が見込まれることだ。最新の国家安全保障戦略が示すように、アメリカは今では中国を戦略上のライバルと見なしている。アメリカでは、対中積極関与政策は失敗で、より断固とした封じ込め政策に変更すべきだというのが、党派を超えて一致した見解になりつつある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中