最新記事

北朝鮮情勢

北の対話路線転換と中国の狙い――米中代理心理戦争

2018年1月4日(木)16時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

金正恩委員長(写真は2017年4月15日、「太陽節」パレード閲兵時) Damir Sagolj-REUTERS

金正恩氏は新年の辞で平昌五輪参加と南北対話再開に言及。3日には実行に移した。中国が唱える対話路線に沿っていると中国は喜び、米韓合同軍事演習と日本への牽制を示唆。南北朝鮮の背後で動く中国の狙いを読み解く。

金正恩氏が南北連絡チャンネル再会を指示

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、1月1日の「新年の辞」で、「核のボタンは私の机の上に常にある」としながらも、2月9日に韓国の平昌で開催される冬季五輪への参加や韓国との対話再開に言及した。

1月3日には朝鮮中央電視台(中央テレビ局)に朝鮮の祖国平和統一委員会の李善権(リ・ソングォン)委員長が出演して、「3日午後から板門店の朝韓(北朝鮮と韓国)連絡チャンネルを再開通するよう、(金正恩委員長からの)指示があった。(北)朝鮮が平昌冬季五輪に参加することに関して話し合いを始める」と述べた。中国の中央テレビ局、CCTVが速報で報じた。

それによれば、李善権は、「(北)朝鮮側は、韓国側と平昌冬季五輪に関して話し合うため密接に交流を行なう。金正恩委員長は韓国の文在寅大統領が1日前(2日に)すぐさま呼応するように決定したことを高く評価した」と述べているとのこと。

実際、3日の午後3時半に板門店の軍事境界線にある電話で南北朝鮮は会話をしている。

韓国側は2日、(1月)9日に板門店の韓国側施設で南北ハイレベル当局者が会談を行うことを提案したが、それに先立って北が積極的に動いた形だ。

おまけに注目すべきは、文在寅を初めて「大統領」という敬称で読んだことである。

CCTV特集番組に透けて見える中国の狙い――「米中代理心理戦争」

CCTVでは長い時間を割いて特集番組を組み、これぞまさに中国が長年にわたって唱えてきた「双暫停(そうざんてい)」が実現されつつあると胸を張っている。これまで何度も書いてきたが、「双暫停」とは「北朝鮮とアメリカ双方が暫定的に軍事行動を停止し、対話のテーブルに着く」という意味だ。

中国としては、本来なら、アメリカに以下の二つのことを突き付けたい。

1.米韓合同軍事演習を中止せよ。

2.THAAD(サード、終末高高度防衛ミサイル)の韓国配備をやめよ。
 
しかしトランプ大統領と蜜月関係を保っていたい習近平国家主席としては、トランプと衝突するようなことはしたくない。したがって直接アメリカに対して要求を突き付けることができない。

そこで習近平政権は韓国と北朝鮮を使って、上記2項目を阻止することを試み始めた。言うならば、南北朝鮮に「米中代理心理戦争」をさせようという魂胆だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

金融デジタル化、新たなリスクの源に バーゼル委員会

ワールド

中ロ首脳会談、対米で結束 包括的戦略パートナー深化

ワールド

漁師に支援物資供給、フィリピン民間船団 南シナ海の

ビジネス

米、両面型太陽光パネル輸入関税免除を終了 国内産業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 8

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 9

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中