最新記事

朝鮮半島

南北対話「朝鮮民族の団結強化」に中国複雑

2018年1月12日(金)15時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

その証拠に、12月から反中キャンペーンを北朝鮮国内で繰り広げておいて、1月1日には金正恩委員長が新年の辞で平昌(ピョンチャン)五輪参加と南北対話実現への可能性を示唆した。しかし、「これはあくまでも金正恩自身の独自の決断であって、決して中国の圧力に屈したわけではない」という雰囲気を予め形成しておことを目論んだと思われる。

「米中・新型大国関係」を謳った習近平に対する憎悪

北朝鮮にとって最大の敵はアメリカだ。事実、南北閣僚級会談で、北朝鮮代表は「ミサイルはアメリカを狙ったものだ」と明言している。

そのアメリカと「新型大国関係」を形成するというスローガンを打ち出して(2012年に)誕生した習近平政権に対して、北朝鮮の金正恩委員長は限りない憎悪を抱いたはずだ。

だから習近平政権誕生以降、未だに中朝首脳会談は開催されていない。

しかし北朝鮮の石油は主として中国からのパイプラインを通して送られてくる原油に頼っている。このパイプラインを遮断するぞと言われたら、北朝鮮としてはお手上げだ。

国連安保理の制裁が全会一致で決議されたと言っても、その内容はあくまでも中国が原油の全面遮断をしないという前提条件の中での「全会一致」だ。「全会一致」という言葉を使いたいために、アメリカは中国の原則に対して譲歩した形で制裁内容を提議している。

だから「原油をすべて止めるぞ」と中国に個別に恫喝されたら、北朝鮮も譲歩するしかない。

この「断油」を含めた中朝国境完全封鎖や中朝軍事同盟破棄を脅しの材料に使われて威嚇されれば、北朝鮮としては一定程度、中国の言うことを聞くしかないのである。

だから南北閣僚級会談は行った。

しかし中国に一矢を報いたい。そのため、ことさら「わが民族」を強調したものと解釈される。

中国の盲点、「わが民族」を突いた北朝鮮の戦略

以前から何度もこのコラムで書いてきたが、中国は南北のどちら側が主導権を握るにせよ、南北朝鮮が統一されることを望んではいない。

なぜなら中国には約200万人の中国籍朝鮮族がおり、その多くは中朝国境にある吉林省延辺朝鮮族自治州および同省内にある長白朝鮮族自治県に集中している。筆者が住んでいた当時(1948年~1950年)の延辺自治州では、人口の70%を朝鮮族が占めていたが、その後の中国は独立運動を恐れて「漢民族化」を図り、朝鮮族を分散させているので、今では40%前後しかいない状況になってはいる。

しかし「民族」という「血のつながり」へのノスタルジーには断ち切れないものがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内

ワールド

FRBの独立性弱める計画、トランプ氏側近らが策定=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中