最新記事

貧困対策

「タダでお金を配る」ベーシックインカム、インドの州で2年以内に導入の見込み

2018年2月5日(月)14時59分
ジャニサ・デルゾ

タダでお金をもらったらすってしまうか?それとも?──ムンバイで仕事を待つ日雇い労働者(2017年11月) Danish Siddiqui-REUTERS

<インドの州レベルで、ベーシックインカムが大規模に導入される見込みになってきた。貧困層救済の切り札になるのか>

インドのいくつかの州は、2年後までに「ベーシックインカム(最低保障制度)」を導入するかもしれない。「タダでお金を配る」政策とも言う。インド政府の首席経済顧問のアルビンド・スブラマニアンによれば、2020年までには現実になりそうだ。

ベーシックインカムについては「この1年、多くの議論があったし、今もある」と、スルバマニアンは記者会見で語った。「だが、少なくとも1つか2つの州が2年以内に導入するはずだ」

ベーシックインカムとは、すべての個人に、所得の多寡に関わりなく、同額の現金を送金する制度。受け取った個人は、そのお金を何に使ってもいいというのが最大の特徴の1つ。だが反対派は、使い道に制限がないと、お酒の乱用などよくないことに使われるに決まっている、と言う。だがケニアの実験ではそうはならななかった。

ただで配れば飲んでしまう、はウソ

2017年10月から、農村の住民は月22ドルを12カ月にわたって受け取れることになった。実験はまだ始まったばかりだが、データによれば参加者の大半は薬や家の修繕など必要なものにお金を使ったという。

「誰にでも(満たしたい)ニーズがある」と、ケニアの実験を慈善団体GiveDirectlyと共に手伝ったキャロライン・テティはビジネス・インサイダー誌に語った。「とくにここのように貧しい村では、ベーシックインカムが手に入ると最も必要な支出に直結する」

フィンランドも、2017年1月からベーシックインカムの実験を行っている。参加しているのは25~58歳の2000人の失業者で、毎月700ドル弱を受け取る。全国に導入する前の実験というより、収入が入ると失業者の労働意欲にどう影響するかを調べるための実験だという。これまでのフィンランドの手厚い失業給付だと、仕事が見つかれば給付が打ち切られてしまう恐れがあるため失業者が働きたがらないという弊害があった。その点、ベーシックインカムは打ち切りの心配がないので失業者が減るのではないか、という実験だ。ベーシックインカムのもう1つの効用と期待されている。

【参考記事】ベーシックインカム、フィンランドが試験導入。国家レベルで初

インドで導入するベーシックインカムについての詳細はまだ不明だが、参加者がいくらもらおうが、一定の条件に合う貧困層を特定して個別に支給額を算定する現在の制度よりははるかに行政コストが低くてすむと、タイムズ・オブ・インディアは言う。これが3つ目の効用だ。

ベーシックインカムは世界の貧困層を救う切り札になるのか、インドの実験に要注目だ。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ソロモン諸島の地方選、中国批判の前州首相が再選

ワールド

韓国首相、医学部定員増計画の調整表明 混乱収拾目指

ワールド

イスラエルがイラン攻撃と関係筋、イスファハン上空に

ワールド

ガザで子どもの遺体抱く女性、世界報道写真大賞 ロイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中