チベット

「ウイグル絶望収容所の起源はチベット」センゲ首相インタビュー

2018年2月21日(水)16時37分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

    新疆ウイグル自治区よりも先に「監視社会化」したチベットの現状を語る、チベット亡命政府のロブサン・センゲ首相 Photo:Kouta Takaguchi

    <共産党の過酷な監視と弾圧が続く中、歴史的なジョカン寺院炎上の衝撃はチベット人に衝撃を与えた。ダライ・ラマ引退後の亡命政府を率いるセンゲ首相が語るチベットの現状と展望>

    中国チベット自治区の区都ラサにある有力仏教寺院「ジョカン寺院(中国名・大昭寺)」で2月17日に火災が発生し、世界遺産にも登録されている歴史的な建物が紅蓮の炎に包まれた。出火原因は不明。けが人こそなかったが、7世紀に建立された寺院の炎上は、チベット人に衝撃を与えた。

    チベット仏教の精神的指導者であるダライ・ラマ14世は既に政治の舞台から引退。一方で08年の騒乱以来、外国メディアを排した「密室」の中での共産党による厳しい監視と弾圧、そしてそれに抗議する僧侶の焼身自殺がいまも続く。

    インド・ダラムサラにあるチベット亡命政府のロブサン・センゲ首相は、ダライ・ラマの後を継いでチベットの自由を求める政治運動のリーダーとして世界各国を訪問している。2月20日、日本を訪問したセンゲに話を聞いた。

    (ジョカン寺院の火災の様子)


    ――SNSでジョカン寺院火災の動画、写真が伝えられたが、中国政府は検閲し、一般市民の情報発信を禁止している。

    われわれに伝えられた情報によると、火災が起きたのは本殿ではなかった。最悪の事態は免れたが、ジョカン寺はチベット人にとって最も重要な寺院であり、人々は心を痛めている。

    08年もそうだったが、チベット人の抗議活動はジョカン寺から始まることが多い。暴動につながりかねないとの懸念もあって中国政府は情報発信を制限したのだろうが、やましいところがなければ公開するべきだ。

    チベット本土では外国のジャーナリストが取材できない状況が続いているが、国際社会に対する情報公開こそが人々の安心につながる。

    また、ラルンガルゴンパ(編集部注:四川省西部のカンゼ・チベット族自治州にある仏教の教学施設。1万人以上が学ぶ「世界最大の仏教学院」と呼ばれてきた)などチベット仏教寺院の取り壊しが続いている。チベット人は自らの文化が失われることを懸念していることも付け加えておきたい。

    ――火災についてラサからの情報提供があったとのことだが、亡命政府はチベット本土の住民との連絡は保っているのか。新疆ウイグル自治区では監視社会化が進んでいる。

    最近、欧米メディアが新疆ウイグル自治区の監視社会化について盛んに伝えているが、実はそうした手法の多くはチベットでは既に導入済みだ。現在、新疆ウイグル自治区のトップは陳全国(チェン・チュエングオ)だが、前任地はチベットだ。

    無数の監視カメラ、私服警官による巡視、無数の派出所と検問、トラブルが起きたときに地域全体のネットを遮断する情報封鎖などの手法はまずチベットで実行され、現在の新疆に持ち込まれた。数千人もの漢民族、チベット人が密告者として雇用されているとも伝えられている。

    もっとも、われわれとチベット本土の人々とのつながりが断たれたわけではない。ジョカン寺院の火災も1時間以内にわれわれに伝わった。

    毛沢東の「抑圧あるところに抵抗あり」という言葉は正しい。抑圧があれば必ず反発が起き、情報も外に漏れる。抑圧と監視社会化による統治が成功することはないだろう。

    【参考記事】ウイグル「絶望」収容所──中国共産党のウイグル人大量収監が始まった

    本誌紹介

    特集:世界が尊敬する日本人100

    本誌 最新号

    特集:世界が尊敬する日本人100

    免疫学者から歌舞伎役者、ユーチューバーまで世界が認めた日本の天才・異才・鬼才100人

    2021年8月10日/2021年8月17日号(8/ 3発売)

    人気ランキング

    • 1

      恐竜絶滅時に起きた高さ1500mの津波 その痕跡がアメリカの地下に眠っていた

    • 2

      大江千里がアメリカで感じた東京五輪の空虚さと違和感

    • 3

      誰にも聞こえない周波数で歌う世界一孤独な「52ヘルツのクジラ」の謎

    • 4

      気候変動の影響で地球の自転軸がずれた──最新研究

    • 5

      中国発の大ヒットSF小説『三体』に秘められた中国的…

    • 6

      太平洋上空の雲で史上最低気温、マイナス111度が観測…

    • 7

      こんなに動いていた! 10億年のプレートの移動が40秒…

    • 8

      自宅療養で人々を見殺しにすると決めた菅首相

    • 9

      「反マスク派」ポスターを剥がした女性、仕込まれて…

    • 10

      仮説上の天体『テイア』の遺物が地球深部に存在する…

    • 1

      東京五輪、中国人バド選手が韓国ペアとの試合中に「罵倒」連発で騒動に

    • 2

      いくら太陽光発電所を作っても、日本の脱炭素政策が成功しない訳

    • 3

      恐竜絶滅時に起きた高さ1500mの津波 その痕跡がアメリカの地下に眠っていた

    • 4

      1匹だけみにくい子猫、病気と思ったら「オオカミ」だ…

    • 5

      ドラァグクイーンと子供のふれあいイベントが抗議殺…

    • 6

      福山雅治ほどの温厚な人を怒らせた「3つのスイッチ」とは

    • 7

      大江千里がアメリカで感じた東京五輪の空虚さと違和感

    • 8

      パリ五輪ロゴの出会い系アプリ激似説がネットで再燃

    • 9

      なぜ日本男子は世界で唯一、女性より幸福度が低くなる…

    • 10

      女子陸上短距離ジョイナーの「伝説と疑惑の世界記録…

    • 1

      東京五輪、中国人バド選手が韓国ペアとの試合中に「罵倒」連発で騒動に

    • 2

      1匹だけみにくい子猫、病気と思ったら「オオカミ」だった

    • 3

      加害と向き合えない小山田圭吾君へ──二度と君の音楽は聴きません。元いじめられっ子からの手紙

    • 4

      20万円で売られた14歳日本人少女のその後 ──「中世に…

    • 5

      「無駄に性的」罰金覚悟でビキニ拒否のノルウェー女…

    • 6

      「1日2個、カットしてスプーンで食べるだけ」 メンタル…

    • 7

      「競技用ショーツが短すぎて不適切」英パラ代表選手…

    • 8

      人間のオモチャにされたイルカ死ぬ──野生動物に触る…

    • 9

      韓国で、日本製バイクの販売が伸びている理由

    • 10

      いくら太陽光発電所を作っても、日本の脱炭素政策が…

    もっと見る

    Picture Power

    レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

    【写真特集】ウトヤ島乱射事件、惨劇の被害者との10年目の再会