最新記事

香港

香港民主化を率いる若きリーダーの終わりなき闘い

2018年3月10日(土)15時30分
クリスティーナ・チャオ

香港は面積こそ小さいが、中国の金融システムと外国との重要な架け橋として、中国への投資促進に極めて重要な役割を果たしている。中国企業は香港証券取引所に進出しており、16年には香港のIPO(新規株式公開)の約90%を中国本土の企業が占めた。

だが中国は直接投資のかなりの部分を香港に頼る一方、香港の歴史的な自由(およびそれが本土にとって前例となること)をよく思ってはいない。

今年1月、香港選挙管理委員会は3月に行われる香港立法会(議会)の補欠選挙にデモシストの常務委員である周庭(アグネス・チョウ)が出馬することを認めなかった。デモシストが主張する「民主自決」が香港基本法(憲法に相当)に抵触するというのが、当局の言い分だ。

「政治的なレッドラインにぶつかったが、われわれは引き下がらない。政府は私たちが選挙に出馬するのを禁じているようだが、私たちは民主主義のため闘う力を失ってはいない」と、黄は強気だ。

黄は敬虔なキリスト教徒の家庭で育った。政治的な活動に引かれたのは、多感な年頃に貧しい家庭を訪れ、祈るだけでは彼らを救うのに必要な変化は起こせないと気付いたのがきっかけだった。11年に14歳で学生運動グループ「学民思潮(スカラリズム)」を結成。

その1年後には10万人を超える政治集会を組織して、批判派が北京寄りの「洗脳」だと酷評する愛国教育に抗議した。結局、香港政府は愛国教育の導入を事実上撤回せざるを得なくなった。

現在はデモシストの活動に専念するため大学を休学し、選挙戦の準備に励んでいる。共に雨傘革命を率いた羅は昨年立法会選挙で当選したが、就任宣誓で抗議演説を行って失格となった。香港市民に仕えるという宣誓文の前に前置きをし、宣誓では「中華人民共和国」の「共和国」の部分に疑問を投げ掛けるかのように発音した。

「3月11日に補欠選がある。(デモシストは)ベテランの幹部活動家を1人出馬させるつもりだ。羅の分の議席を取り戻したい」と、黄は意気込む。

すぐに何かを変えられるとは思っていない。「10年後も同じ戦場にいるはずだ」と、黄は言う。「ただ香港といえばブルース・リーやジャッキー・チェンや飲茶というイメージじゃなく、人々が民主化を求めて闘っている国だと思われるようになればいいと思う」

<本誌2018年3月13日号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米関税引き上げ、中国が強い不満表明 「断固とした措

ビジネス

アリババ、1─3月期は売上高が予想上回る 利益は大

ビジネス

米USTR、対中関税引き上げ勧告 「不公正」慣行に

ワールド

バイデン大統領、対中関税を大幅引き上げ EVや半導
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 7

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中