最新記事

シリア内戦

化学兵器疑惑のシリア政権 欧米の報復受けても優勢持続の背景

2018年4月24日(火)16時06分

4月16日、シリア政府軍による東グーダ地区ドゥーマへの空爆が化学兵器による攻撃であったとして、米英仏の3カ国は懲罰的なミサイル攻撃を行ったが、報復攻撃が内戦の状況に変化を与えなかった反面、そのきっかけとなった政府側の攻撃は大きな転機となった。写真はドゥーマで16日撮影(2018年 ロイター/Omar Sanadiki)

シリア政府軍による東グーダ地区ドゥーマへの空爆が塩素ガスを用いた化学兵器による攻撃であったとして、米英仏の3カ国は14日、懲罰的なミサイル攻撃を行った。

この報復攻撃は、7年に及ぶシリア内戦の状況にほとんど変化をもたらしていないが、そのきっかけとなったシリア側の攻撃は大きな転機となった。

反体制派は数年にわたり、度重なる攻撃に耐えて首都ダマスカス近郊の拠点ドゥーマを維持し続けてきた。だが7日の政府軍の攻撃から数時間も経たないうちに、彼らは退却を始めたのである。

苦境に追い込まれた住民からの圧力と、同様の空爆をさらに行うというロシアからの脅しを受けて、反体制派武装勢力「ジャイシュ・アル・イスラム」はついにドゥーマを放棄しトルコ国境方面に離脱することに合意したと、同組織の幹部は語った。

それから1週間足らずで米英仏が報復攻撃に踏み切るまでに、シリア政府の権力中枢を囲む地域での武力抵抗は、ほぼ完全に崩壊した。アサド大統領の権力はさらに強化された。

シリアとロシア両国は14日早朝に行われた欧米諸国による軍事介入を非難する一方で、ドゥーマでの化学兵器使用を否定している。

ロシア政府は、化学兵器使用は英国の協力のもとで捏造された嘘だと決めつけているが、英国政府は、情報機関によるものも含め多くの情報がシリア政府の責任を示唆していると述べている。

真相はさておき、化学兵器使用が疑われた7日の攻撃によって現地の情勢は劇的に変化することになった。

医療支援グループによれば、これにより数十人の民間人が死亡したとされており、活動家のあいだで出回っている映像では、十数人の男性、女性、そして子どもたちの身体がぴくりともせずに床に横たわり、そのうち数人は口から泡を吹いている様子が捉えられている。

前述した反体制武装勢力の幹部によれば、同攻撃から数時間後、反体制グループが派遣した交渉担当者が、ロシア国防省の高官が率いるグループと協議を行ったという。

「われわれは脅しを受けた。『ドゥーマで起きたことを見たか。(撤退合意に)サインするか、さらなる攻撃で町が全滅するか、どちらかだ』というものだ」。イスタンブールに拠点を置く前述の反対武装勢力幹部はそう語り、反乱を終らせるためにシリア政府軍の攻撃を支援したと、ロシアを非難した。

「彼らは空爆を繰り返したが、われわれが通常兵器による攻撃には屈しなかったので、化学兵器を使うしかないという結論に達したのだ」と語った。

ロイターは同幹部のコメントについてロシア国防省に詳細な質問を送ったが、回答は得られなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノババックス、サノフィとコロナワクチンのライセンス

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 5

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 6

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 9

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中