最新記事

ヨーロッパ

オーストリアは永世中立、でもロシアが好き

2018年4月14日(土)16時20分
フランツシュテファン・ガディ(ディプロマット誌シニアエディター)

中立という在り方をさらに推し進めたのは70年代のことだ。当時のブルーノ・クライスキー首相は「積極中立」政策を掲げ、ソ連などの独裁国家と2国間および多国間の枠組みで積極的に関わった。おかげで首都ウィーンは外交ハブ化し、現在も欧州安保協力機構(OSCE)やOPEC、国連の国際原子力機関(IAEA)などが本部を置く。

クライスキーは積極中立のカギはソ連との良好な関係にあると考えた。今でも、ロシアとの友好関係は中立維持の重要な手段と見なされている。実際、オーストリアの政界では「中立」は「良好な対ロ関係」とほぼ同義。ロシアとの協力は、自由党に限らず党派を超えて広く支持され、東西間の政治状況に左右されることもない。

14年にロシアがクリミア半島を併合した後、ウラジーミル・プーチン大統領の公式訪問を初めて受け入れたEU加盟国はオーストリアだった。ウクライナ問題を受けたEUの経済制裁にもかかわらず、オーストリアの対ロシア直接投資額は昨年、70億ドル相当に達した。ロシアで操業中のオーストリア企業は700社を超える。

一方、ロシアにとってオーストリアは大人気の旅行先で、昨年には33万8000人以上のロシア人観光客が訪れた。さらにロシア産ガスのお得意様でもあり、オーストリア東部には欧州トップクラスのガス供給施設が存在する。プーチン自身、オーストリアびいきとされ、同国の山岳地帯で何度も休暇を過ごしている。

しかしオーストリアの中立政策、なかでもロシアとの緊密な関係には問題点もある。

シンクタンクのヨーロッパ外交評議会が昨年に行った研究が示すように、どっちつかずの姿勢はオーストリア国内で反米感情をあおる結果になっている。「オーストリアの全政党に認められる反米感情が、特に安全保障問題でロシアへの共感を生む環境の醸成につながっている」と、研究は指摘する。

中立主義は国際法の軽視も生みかねない。オーストリアの政界やビジネス界では、ロシアとの関係強化のためならウクライナ問題に目をつぶって構わないと考える向きが強い。

さらに中立という建前があるせいで、その裏で危ない路線転換が起きていても見えにくい。

自由党とロシアの関係は懸念すべきものだ。ロシア人から資金提供を受けているとの臆測が絶えない自由党は欧州で初めて、ロシアの与党・統一ロシアと協力合意を結んだ極右政党。党員はロシア政府の招きでクリミアなどに選挙監視団として赴き、選挙の「合法性」を裏書きする役目を果たしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏成長率、第1四半期は予想上回る伸び 景気後

ビジネス

インタビュー:29日のドル/円急落、為替介入した可

ワールド

ファタハとハマスが北京で会合、中国が仲介 和解への

ビジネス

ECB、インフレ鈍化続けば6月に利下げ開始を=スペ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中