最新記事

テクノロジー

アマゾンが売り込む「監視社会」、顔認証技術を警察に提供

2018年5月24日(木)20時00分
エイプリル・グレーザー

中国の深センで行われた中国公安エキスポに出展された顔認証技術(2017年10月) Bobby Yip-REUTERS

<人権団体が警察への提供中止を求めたがアマゾンは応じず。次は、投稿写真で最強のフェイスブックなどの参入が相次ぐだろう>

オンライン書店として出発したアマゾンの原点を覚えているだろうか。1994年の創業以来、扱う品目をどんどん広げ、世界最強の企業の仲間入りをした。今では電池や服から牛乳や卵まで売り、音楽や映画のストリーミング配信も手掛け、ついには警察にリアルタイムの顔認証サービスまで提供するようになった。

アマゾンが画像認識サービスRekognition(リコグニション)の提供を始めたのは2016年11月。アマゾンのうたい文句によると、これは「1日に何百万点もの写真を処理」し、そこに写った人物や物体を特定できる技術だ。当時のアマゾンの公式ブログは、「視覚的な監視」や「写真に写った物体や人物の判別」に利用できるほか、いわゆる「スマート・ビルボード」、つまり通行人の性別・年齢などに合わせてパーソナライズされた広告を瞬時に表示できる広告板に利用できる優れものとして、この技術を紹介している。

アマゾンによると、リコグニションは1枚の写真に写った人物最高100人までを特定できるため、抗議デモや混雑したデパートの店内、地下鉄の駅などの群衆の監視で威力を発揮する。

この機能に真っ先に目を付けたのは警察だ。オレゴン州ワシントン郡の保安官事務所はいち早く2016年12月に導入。目的は防犯カメラなどの画像を警察のデータベースに保存された犯罪歴がある人物の顔写真と照合して、容疑者を割り出すことだ。米自由人権協会(ACLU)の調査によれば、アマゾンとワシントン郡は、警察官が捜査中に撮った写真をデータベースと照合できるよう、モバイル機器用のアプリも開発したという。

【参考記事】14億人を格付けする中国の「社会信用システム」本格始動へ準備

人権団体が抗議の声

捜査当局によるこの技術の利用については、これまでほとんど議論されてこなかったが、人権団体が導入実態を調べて、抗議の声を上げ始めた。

ACLU、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、米イスラム関係評議会をはじめ、全米の40余りのNPOは5月22日、連名でアマゾンに書簡を送り、警察と政府へのリコグニション提供を中止するよう求めた。「アマゾン自身がうたっているように、リコグニションは強力な監視システムであり、人権を侵害し、非白人コミュニティーを標的にするツールとして悪用される恐れがある」と、書簡は指摘している。問題は、この技術が不法移民の摘発や憲法で保障された政治活動である抗議デモの監視に利用されることだ。

ACLUは警察の内部文書とアマゾンの公開資料を基に、リコグニションの利用実態を明らかにした。例えばアマゾンは「ユーザー」の声として、フロリダ州オーランドの警察署長の言葉を引用している。警察署長は、アマゾンとの関係を「前例のないユニークな官民連携」と呼び、リコグニションは「警察が関心を持つ人物をリアルタイムで検出して知らせてくれるツール」だと述べている。オーランド警察は、アマゾンが市内の監視カメラ網と統合できるシステムの構築を申し出たことから、2017年に導入を決めた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、第1四半期の利益が過去最高 フラン安や

ビジネス

仏エルメス、第1四半期は17%増収 中国好調

ワールド

ロシア凍結資産の利息でウクライナ支援、米提案をG7

ビジネス

北京モーターショー開幕、NEV一色 国内設計のAD
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中