最新記事

貿易戦争

もはや瀕死のWTO裁定機能 トランプがすべての裁判官指名に拒否権発動

2018年5月28日(月)14時10分

5月18日、トランプ米大統領が、世界貿易機関(WTO)の首元を締め上げている。写真はホワイトハウスで撮影(2018年 ロイター/Kevin Lamarque)

トランプ米大統領が、世界貿易機関(WTO)の首元を締め上げている。その要求は明白だ──。自国政府の不利益になるようなWTOルールの解釈を導く紛争処理裁定は今後必要ない、というものだ。

トランプ大統領は、WTO裁定手続きの控訴審にあたる上級委員会で、すべての新たな裁判官の指名に対して拒否権を発動し、事実上、WTOの機能を危機的な状況に陥れている。

トランプスタイルに忠実な米国のデニス・シアWTO大使は、WTOの最高裁とも言える上級委員会を、機能不全な状態にまで縮小させていることに対して、後ろめたさを感じてる様子をみせていない。

「米国は、この機関の現状に満足することを良しとしない」と、シア大使は今月、他国のWTO大使らに述べた。

「米国が今後WTOにもたらすリーダーシップは、より強力で実効性があり、政治的に持続可能な組織の実現に向けて、結果として率直な物言いや、必要な場合には破壊的な行動を伴うことになるだろう」と、同大使は宣言した。

トランプ大統領は、米国企業や労働者に不公平な形で不利益をもたらすとみなした条約や通商慣行と戦うために、世界貿易戦争も辞さない構えだ。中国での過剰生産を理由に、世界中からの鉄鋼やアルミニウム輸入製品に対して関税を課している。

1995年の設立以降、WTOは500件以上の国際的な通商紛争を取り扱い、加盟国は世界貿易の95%に携わっている。世界貿易規模は物品に限っても、年間18兆ドル(約2000兆円)と、WTO設立当初の3倍に膨らんでいる。

過去への「ワープ」否定

トランプ政権は、自らの権限を越えた判断を下そうとする無責任な裁判官を抑えこむ必要を感じている。

だが米国の振る舞いについて、他の国は、貿易紛争を交渉によって解決するよりも、事案の中身に関係なく、より強い国が勝つのが通例だったWTO以前の世界に戻ろうとする意思を感じ、組織的な脅威を見て取っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米、両面型太陽光パネル輸入関税免除を終了 国内産業

ビジネス

米NY連銀総裁、インフレ鈍化を歓迎 「利下げには不

ビジネス

日本生命、米同業のコアブリッジに6000億円出資 

ビジネス

ホンダ、電動化とソフトへ投資倍増 30年度までに1
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 8

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 9

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中