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インドネシア統一地方首長選、今日投開票 警官銃撃やテロ容疑者逮捕で緊張高まる

2018年6月27日(水)12時14分
大塚智彦(PanAsiaNews)

パプアでは警察官搭乗機銃撃事件も


インドネシア各地で統一地方首長選が始まったことを報じる現地メディア KOMPASTV / YouTube

州知事選が行われるインドネシアの東端ニューギニア島にあるパプア州では6月25日午前9時40分ごろ、遠隔地の投票所に警備のため派遣される警察機動隊の隊員15人が搭乗した双発プロペラのチャーター機が、同州中央部山岳地帯にあるワメナ空港からンドゥンガ州のクニャム空港に到着し滑走路から駐機場に向かっている最中、約15人の武装集団による銃撃を受けた。

地元警察によるとAK48 が6丁、ライフル銃が2丁、拳銃2丁と斧や槍で武装した集団は約10発を飛行機に撃ち込むと空港外に逃走した。乗客に怪我はなかったがパイロットが肩と後頭部に被弾する重傷を負った。

その後、武装集団は空港付近の商店や住宅地区で地元住民を襲撃し、南スラウェシ州から移民してきて商店を経営していた夫妻や近所の男性など3人を殺害して山間部に逃走した。

同空港では22日にも着陸した航空機が銃撃される事件が起きている。警察は犯行グループを「分離主義を主張する武装犯罪集団(KKSB)」とみて本格的な捜査を始めた。

パプア州では統一地方首長選に絡んで独立を主張する武装組織の活動が活発化しており、6月16日には同州プンチャック・ジャヤ付近のヤンビ地区でパトロール中の陸軍部隊が銃撃される事件も発生するなど治安状況が悪化している。

最重要警戒は西ジャワ知事選

こうした不穏なテロ組織の動きや武装独立集団の活動についてティト長官は「投票所などでのテロの脅威は排除して安全は確保されている。国民は心配することなく1票を投じてほしい」と呼びかけている。

警察によるとテロ組織のJADなどは「民主主義を否定し選挙を認めない立場から、選挙妨害の目的でテロを実行しようとしていた」と分析している。その上でテロを計画していたとして24日までに逮捕した13人の容疑者の捜査から「西ジャワ州の選挙でテロを計画していた可能性が高い」ことが分かったという。

西ジャワ州では知事選の投票が行われている。インドネシアでも最大規模の約3000万人の有権者を擁する同州では4組の正副知事候補者が立候補。選挙戦ではバンドン市長や西ジャワ州副知事などの知事候補とともに2人の軍人出身候補者が激戦を展開した。

西ジャワ州は今回知事選がないジャカルタ首都圏に隣接した選挙区であり、有権者も投票所も数が多く、元軍人候補者も立候補していることなどから「テロの影響力も大きく、ターゲット(場所と人)も多い」としてテロの標的に選ばれた可能性が高いという。

このため西ジャワ州では多くの警察官、国軍兵士による厳重なテロ警戒が27日朝から投票所などで続いている。

日本大使館は「投票所などにおいては、混乱等不測の事態が発生する可能性もありますので現地報道等で最新の政治動向や治安に関する情報の入手に努め、投票所や人の多く集まる場所等には不用意に近づかない等、自らの安全確保に努めてください。なお投票所に無断で立ち入ることで選挙妨害と見なされる可能性がありますので、この点についてもご注意ください」として注意を喚起している。

在留邦人を含めインドネシア国民の大多数は投票結果に注目しつつ、今日の投開票が安全無事に終了することを心から願っている。


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大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

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