最新記事

ベンチャー

The Era of Dataism──データ資本主義の時代

2018年6月25日(月)18時10分
蛯原 健(リブライトパートナーズ代表)

インターネットはもはや、成長産業ではない

iPhoneすなわちスマートフォンが世の中にデビューしたのは2007年である。以来10年余が過ぎ、そしてとうとう昨年、スマートフォン世界出荷数の伸びは止まった。対前年ゼロ成長である。自動車ですら2%成長しているのに、である。

インターネット利用者人口もまた7%とそれまでの二けた成長を割り込み、ダルな低成長時代へと突入した。トレンドから見て今年は5%、来年は3%といった具合だろう。

かつ、その低成長ですら新興国の地方都市におけるそれによってもたらされているのだから、先進国や、新興国でも都市部においてはインターネット人口成長率は完全にフラット化している。

加えて、産業として見れば、そのパイを米国5社と中国2社のプラットフォーマー寡占企業群が牛耳っている。

プラットフォーマーがインターネット経済圏を水平統合的に寡占する事で、彼ら7社は既に巨大であるにもかかわらず引き続き高い収益成長を保持している。故にあたかもインターネット産業は今だ成長産業であるような錯覚にしばしば人々は見舞われる。しかし彼ら以外にとってはそうではない。それが不都合な真実である。

インターネットの実質的な登場は1994年のネットスケープの誕生であるが、そこから四半世紀たった今、インターネットは産業として成熟した。歴史的、一般的に、一つの産業の旬は30年で過ぎると言われている。そう考えればごく自然な結末とも言えよう。

では、インターネットが成熟産業化してしまった今日において、世界に星の数ほど生まれているスタートアップはどこに向かっているのだろうか。莫大な投資資金はどこに向かっているのだろうか。

答えは簡単、「インターネットの外」である。医療、交通、物流、教育、金融、等々リアル世界をテクノロジーによって再定義する競争が始まっている。

現在の世界スタートアップ時価総額ランキング上位から、Uber(交通)、Didi(同)、Xiaomi(製造)、美団点票(出前)、AirBnB(宿泊)と、トップ5の全てが「インターネットの外」が主戦場のビジネスを展開している。

もう一つ、「インターネットの外」とともにポスト・インターネット成熟期の第二のフロンティアがある。「地方」である。

AmazonやAlibabaはウォルマートや世界に無数にあるショッピングモールの合計よりも遥かに大きくなった。にもかかわらず人々はしょせんEコマースでは2割程度しか買っていない。8割はフィジカルな店舗で買う。そしてその比率は地方の2級都市、3級都市ほど高い。

ここに膨大なフロンティアがある。その世界はそう簡単にオンライン化も、IT化もしない。この「地方」こそネクスト・フロンティアである。ここに今、中国勢を筆頭に、欧州のソーシャルインパクトファンド等、世界の金が流入し始めているのである。昨今の流行り言葉、フィナンシャル・インクルージョン(金融包摂)などもこの文脈である。

ebihara2.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ヘッジファンド大手、4月も好成績 株式波乱でボラ活

ワールド

トランプ氏、銃団体の支持獲得 バイデン氏の規制撤廃

ビジネス

日経平均は小幅続落で寄り付く、ハイテク株安い

ワールド

コンゴでクーデター未遂、首謀者殺害・米国人含む50
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 7

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 8

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 9

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中