最新記事

国債

ブームは終わった? 米国債、市場で7割超が「額面割れ」

2018年7月11日(水)16時50分

7月9日、米国債市場は今、実に銘柄全体の75%で価格が額面を割り込んでいる。ニューヨーク証券取引所で6日撮影(2018年 ロイター/Brendan McDermid)

米国債の相場が天井近くにあった2016年8月に発行された10年債は、取引開始直後からずっと値下がりが続いており、持ち直しの兆しは見えない。

これはほんの一例で、米国債市場は今、実に銘柄全体の75%で価格が額面を割り込んでいる。

16年8月発行の10年債の場合、入札時の需要こそ強かったものの、流通市場にデビューするや否や、売られ始めた。折しも当時は、長期金利が過去最低を更新してからほぼ1カ月が経過していた。足元の価格は額面未満で、利回りは2.833%と、発行時点で過去最低だった1.50%の表面利率のほぼ2倍に達し、これまでの総リターンは約8%のマイナスだ。

価格が反発しない限り、30年前の強気相場突入以降で初めて投資家がずっと損失を被り続ける事態になりかねない。

過去20年を振り返ると、米国債市場で額面割れの銘柄が半分を超えると、常に「救いの手」が差し伸べられてきたことが、ICEバンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ米国債指数の動きから分かる。つまりそうした局面は米連邦準備理事会(FRB)の利上げサイクルのピークと一致し、その後金融緩和がやってきたからだ。

今回はどうだろうか。

フェデレーテッド・インベスターズのマルチセクター戦略グループ責任者兼シニア・ポートフォリオ・マネジャー、ドナルド・エレンバーガー氏は「市場は現在が買い場かどうか見極めようとしている」と話すが、どうやら押し目買いのチャンスではなく、弱気市場が到来したシグナルが発せられている可能性がある。

その第一の理由としてPNCファイナンシャル・サービシズ・グループの共同チーフ投資ストラテジスト、ジェフ・ミルズ氏は、額面割れ銘柄の割合がこれほど高くなったことは、1980年代半ばにデータ集計を始めてから例がない点を挙げる。

これは世界金融危機後、超低金利下で米国債が発行される時期が長く続いた結果だ。

こうした既発債(オフザラン銘柄)は、新発債と同等のリターンを提供するために大幅に取引価格が切り下がっている。一方、額面割れ銘柄が非常に多くなり、それらに対する投資家の人気が低調なことが、米国債市場全体の流動性を圧迫している面も出てきている。

次の理由は、FRBが15年12月に開始した利上げをさらに進めるとの観測が広がっていることだ。物価上昇率が12年以降初めてFRBの目標に到達し、米経済成長がなお力強いことから、市場は年内にあと2回利上げがあると予想する。

そして最後に一部の投資家は、数十年に一度という規模の需給構造変化が米国債の取引をより困難にして、価格に悪影響を及ぼす恐れがあるとみている。

具体的に見ると、FRBが金融危機の際に債券購入によって4兆ドルまで積み上がったバランスシート縮小に乗り出す中で、財務省は昨年12月にトランプ大統領が署名した1兆5000億ドル規模の減税の財源確保のために借り入れを拡大しつつある。

JPモルガンの試算では、今年の国債発行額は1兆3000億ドルに膨らむものの、こうした供給を吸収できるほどの需要が存在するのかどうかは分からない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中